経済事件の闇は、容疑者の逮捕によってもそのすべてが明らかにはならない。
広報パーソンは具体的な経済事件から、感覚を研ぎ澄まして、自らが属する組織のために役立つ教訓を得ようと務める。
経済事件の連鎖のなかで、広報パーソンが正気を失わないためには、犯罪の裏に潜む伏流を知っておかなければならないだろう。
筆者が敬意を払っているのは、初代内閣広報官の宮脇磊介氏の箴言である。このシリーズでも紹介した。
バブル経済崩壊後の不況のカゲには、反社会的勢力が巣食っている。「ヤクザ・リセッション」と宮脇氏は呼ぶ。
容疑者の有罪が確定したとしても、事件の闇の全体像が必ずしも明らかになるものではない。
ソフトバンクの子会社である、インターネット接続サービス会社を襲った「個人情報漏えい事件」もまた、その闇はいまも深い。
広報パーソンが経済事件から、教訓を引き出す、新しい手がかりとして『マネーの闇』(講談社oneテーマ新書・一橋文哉)を勧めたい。ペンネームの筆者はこれまでその個人情報をいっさい明らかにしない。デビュー作でグリコ・森永事件を追及した『怪人21面相の正体』などで知られる。大手新聞社の事件記者たちのチームのペンネームであるともいわれるが、その真偽はわからない。
ただ、その作品に一貫しているのは、反社会的勢力による企業に対する攻撃の深層をえぐろうとする取材力のすさまじさである。
最新作は、その集大成ともいえる。戦前、戦後を通じた数々の経済事件をとりあげて、その闇をかぎりなく暴こうとしている。
最近のスマートフォンのアプリを悪用して、個人情報を無断で外部に送信させる事件について、一橋はいう。
「実は今、こうした個人情報を売買するビジネスが、闇社会で大流行しているのだ。
住所や家族構成から車のナンバー、携帯電話番号まであらゆる情報を扱う。入手先は役所や大企業をはじめ、パソコンや携帯電話を売るメーカーの人間や、取り締まりに当たる警察官、法的手続きをする司法書士まで含まれる」と。
闇の勢力に対する捜査陣の体制はどうだろうか。
「警視庁によると、11年に警察が解析した情報量は約330万ギガ・バイトで、4年前に比べて6・6倍に増えている。こうした事態に対応するため、警視庁は警視庁をはじめ主要警察本部を中心にサイバー犯罪に関わる専従捜査員を、ここ2年間で650人増員し、計1000人としたが、全く足りていないのが現状だ」と、指摘している。
いわゆるサイバーポリスは増強されている。当たり前の話ではあるが、彼らは犯罪を捜査するのであって、企業などの組織は独自に防御の構えをとらなければならない。
ソフトバンクグループは、内部の強力なネット技術者たちが犯人を追い詰めた。個人情報は犯人たちの手に渡りはしたが、警察が押収し、2次流出には至らなかったのである。
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