倒産の危機に立ち向かう7人の侍たち 「経済ドラマ」の新しい地平線を切り拓いたか
倒産の危機にあるタクミ電機の会長である譲原三郎(岸部一徳)は、ひそかに7人の社員による再建のための戦略室を立ち上げる。営業部長から子会社に左遷の形をとって、その室長になる矢作篤志(唐沢寿明)らに彼はいう。
「奇跡を起こせ」と。
ドラマのナレーションは、これは過去の話ではなく現在も企業のなかで、進行形であると告げる。
NHKのテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」である。1月26日(土)から3週連続で放映された。再放送に加えて、いずれ再々放送もあろう。
「7人の侍」たちは、室長の矢作のもとに、技師長の西山慶吾(国村隼)、財務課長の柿沼雄二(吉岡秀隆)、過去の大量リストラを手掛けた宇崎英作(平田満)らである。
東京・大田区の町工場から世界的な家電メーカーに成長したタクミが、テレビや半導体の不振によって、メインバンクから見放されて借り入れの返却を迫られ、その期限つまり余命は3カ月しかない。
タクミが経営の立て直しにかけていたのは、電気自動車向けのリチウムイオン電池である。大手自動車メーカーとのまとまりかけていた契約が、中国の電機メーカーであるライシュの低価格の製品との競争に敗れる。
そして、ライシュの製品の核となる技術が実は、タクミが開発したものであることがわかる。
再建の方策をまかされた室長の矢作と同期で、8年前のリストラで切った迫田貴弘(高橋克実)がその開発にかかわり、ライシュに持ち込んだことがチームによって解明される。
「経済ドラマ」というジャンルがあると、わたしは考える。ジャーナリズムとドラマの融合である。現実に起きている経済事件の本質が、虚構のドラマによって深い感動を呼ぶ。さらに、そのドラマは近未来を予言する。
フィクションとノンフィクションの重なり合うところに、経済ドラマの限りない領域があると思う。
NHKの経済ドラマなら、真山仁原作の「ハゲタカ」(2007年)である。銀行員として、中小企業を倒産に追い込んだ過去を持つ、ファンドマネジャーが日本企業に買収、再編を仕掛ける。その対象は大手電機であり、玩具メーカー、老舗の旅館など多岐にわたる。
ジャーナリスト出身の真山氏の精緻な取材がベースにある、原作を巧みに生かしている。フィクションとジャーナリズムが融合されている。
主役のファンドマネジャーを演じた大森南朋は、この作品が海外の賞を獲得したこともあって、一躍日本を代表する俳優の仲間入りを果たした。
ラストシーンで、大森が倒産させた中小企業をひそかに訪れて、路傍に落ちたネジを拾う。彼がファンドマネジャーを辞めることが暗示される。
リーマンショック後に、激烈なマネーの世界から抜け出す人々をみた。ドラマの予言性である。
「メイドインジャパン」もまた、現実の企業の経営危機について取材した経緯が、チーフ・プロデューサーの高橋練によって、明らかにされている。
多方面に取材をした結果として、ドラマのなかにさまざまな企業が透けてみえるようである。パナソニック、シャープ、トヨタ……。
「メイドインジャパン」は、創業者一族の経営判断の誤りが、経営危機を招いた大きな要因であるというシナリオである。テレビや半導体事業の継続のために、8年前にリチウムイオン電池の開発を、タツミ電機いったん中止した。その技術が中国企業に結果として移転し、競争に敗れる。
「ハゲタカ」が企業買収や再編に関する、金融の新しい潮流をていねいに説明しながら、そのターゲットになった企業の業界の環境についても描いた。
「メイドインジャパン」は、日本の製造業が直面している危機の要因について、経済ドラマの隠し味であるジャーナリズムの要素が弱いように映る。
産業界で働く人々は、自らの身に降りかかっている運命が、なにによってもたらされたのかいま、ようやくわかってきている。
インターネットによる情報革命をきっかけとして、製品のデザインやコンセプトを決めて、世界的に最適な部品調達と組み立て地を選ぶ、製造過程の革命に日本企業は遅れたのである。本社と下請けを垂直に統合した生産モデルが行き詰まった。
「日本式モノづくりの敗戦」(野口悠紀雄著)のなかで、野口教授が指摘している「ファブレス化」である。本誌がなんどか取り上げている中国の巨大組み立て専門工場もまた、その生産過程のひとつのブロックである。
そして円高である。「アベノミクス」の理論的主柱である、イェール大学の浜田宏一名誉教授が「アメリカ経済は日本経済の復活を知っている」のなかで、欧米のメディアを引用しながら説くように「日本の経営者ばかりを批判するのは間違いである」という視点である。
円高の正体が、浜田教授が指摘するように、日銀の無策にあるとしても、欧米の財務当局者からいま、円安の動きを容認する発言がなぜ出ているのか。
これもまた、フィクションとジャーナリズムが融合して、経済ドラマとなるテーマである。
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