政治経済情報誌「ELNEOS」2月号寄稿
政府は通常国会に「GAFA」と呼ばれる世界的な巨大IT企業について、個人情報保護法の改正案と、独占禁止法の「優越的地位の乱用」を、個人に対しても適用できるようにする同法の運用指針などを提出する。
巨大IT企業が個人情報を握って、さまざまなビジネスに生かそうとしているのは間違いない。しかし、我々を監視しているのは、先進諸国の政府そのものである。市民も企業も「監視社会」のなかにいる。
米国の国家安全保障局(NSA)と中央情報局(CIA)の元局員である、エドワード・ジョセフ・スノーデンの自伝の最新刊・邦訳「スノーデン 独白 消せない記録」(河出書房新社・山形浩生訳)は改めて我々の世界認識を根底から覆した。
「スノーデン事件」と呼ばれる一連の彼によるNSAの内部文書の暴露は、世界の主要なメディアの調査報道チームとの連携によってもたらされた。
「NSA文書を見ても、そこにあらわれた最も深い秘密として実施されている大量監視の世界的なシステムについての話が理解されにくいのはわかっていた――あまりにもよじれて専門的な話なので、それを一気に『文書ダンプ(dump・投げ出すこと)』として提示するのは無理だ。ジャーナリストの辛抱強く慎重な活動を通じて提示されなければならず、しかも思いつく最高のシナリオでは、それは複数の独立マスコミ組織の支援で実施されなければならなかった」
スノーデンとジャーナリストとの共闘の第一弾は二〇一三年六月、英国のガーディアンが放った特ダネである。NSAは毎日、米国の電話会社の通話記録を数百万件収集しているほか、巨大IT企業が個人情報の収集に協力していた。
「その文書の解釈を手伝う以上のことさえ必要があるかもしれない。彼らのパートナーとなって、正確かつ安全に報道を助ける技術訓練とツールも提供しなければならない」
ジャーナリストとのメールのやり取りにおける鉄壁な暗号化であり、持ち出した文書を保存した記録媒体について二重三重の暗号化をほどこして、捜査当局の手に落ちても解読できないようにすることなどである。
日本のメディアのなかで、スノーデンはNHKを選んだ。「クローズアップ現代+」は一七年四月、ネット上の電子メールや通話記録を個人別に検索できる「XKEYSCORE(エックスキーソコア」をNSAが、日本政府に提供したことをスクープした。
「国の自由は、その市民の権利尊重によってしか計測できず、こうした権利は実は国の権力に対する制限であり、政府がずばりいつ、どこで個々人の自由の領域を侵犯してはいけないかの定義だと僕は確信している。これはアメリカ独立革命では『自由』と呼ばれ、インターネット革命では『プライバシー』と呼ばれるものだった」
情報漏洩防止の最前線に立っている、広報パーソンにスノーデンの自伝を勧めたい。捜査当局に手の内を探られるのを避けているが、「監視社会」を生き抜く方法は学べる。