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「反社」とは何か

2020年2月15日

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政治経済情報誌「ELNEOS」1月号寄稿

 二〇一九年一二月初旬に閉幕した、臨時国会の終盤は、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」に、野党は攻撃の的を絞った。

SNS時代を象徴するように、招待客がネットにアップした「桜を見る会」写真から、「反社会的勢力」(以下、反社)の参加があったのではないか、と野党は二の矢を放った。

ネット上の情報は真偽を問わずに拡散する。出席者として名指しされた、暴力団総長は実名で「週刊新潮」(一二月一二日号)において事実関係を完全に否定する一幕もあった。

野党の追及は止まず、反社の定義に関する二〇一七年の閣議決定を振りかざした。「暴力及び威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」という定義である。

「政府として改めて『反社』とは何かを定義する必要があるのではないか」という野党の質問主意書に対して、政府は「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義するのは困難だ」という答弁書を閣議決定した。

「反社」といえば、暴力団とそれには所属しないが犯罪を繰り返す集団である「半グレ」が想起される。広報パーソンとして直面した事件を振り返るとき、「反社」はさらに幅広い。「桜を見る会」をめぐる野党の論点よりも、閣議の答弁書の見解をとる。

 このシリーズを始めるに際して回顧した、ソフトバンクグループの子会社のインターネット・サービス会員名簿が盗まれた事件で、名簿の一部を印字して数億円の恐喝に及んだのは、巨大宗教集団の地方の幹部であった。事件の筋書きを描いたと推測される人物は、かつて野党の委員長の自宅の電話を盗聴したグループのリーダーだった。

 通信ネットワークの専門家集団は、携帯電話のネットワークの脆弱性を見つけ出しては、その補修に数億円を要求してきた。これを拒否すると、ライバル会社は支払いに応じたことなどを、一部メディアにリークしたと推定される報道もあった。

 メディアの取材攻勢は、事件を起こした反社ではなく、かかわった企業や個人に向かうのである。

 最新刊のベストセラー『教養としてのヤクザ』(小学館)のなかで、ノンフィクションライターの溝口敦氏と、ライターの鈴木智彦氏が、吉本興業の芸人による「闇営業問題」に対談している。

溝口 あの一連の報道を見ていて、おかしいなと思ったのが、『芸人が反社会的勢力からお金をもらうのが問題だ』ってみんな言うけど、芸人のことばっかり騒いでいて、反社会的勢力の側に突っ込んだ記事が全然なかったことですよ。特殊詐欺グループのリーダーの小林宏行という名前すら、ほとんど出てこない……

 鈴木 特殊詐欺でぼろ儲けしている犯罪集団が、有名芸能人を呼んで派手に忘年会をやっているんです。闇営業よりこっちのほうがよっぽど大きな問題だと思いますよね」

 この新書は、流行しているタピオカドリンクにヤクザのフロント企業が進出していることや、原子力発電所の工事にヤクザの下請け企業が加わっていることなど、反社を考えるうえで時宜を得た出版である。

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