ソフトバンクの子会社から個人情報が漏えいした事件は、インターネットを熟知する社内の調査チームが、犯人を追いつめた。
警視庁の「サイバーポリス」に対して全面的に社内情報と資料を提供したのは勿論である。
捜査当局あるいは監督官庁との協調は、公明な広報活動のいうまでもない前提である。
リコールの問題をめぐって、三菱自動車は再び監督官庁である経済産業省と、その届け出について摩擦を起こしたかにみえる。
広報パーソンとして学ばなければならない多くの教訓を含んでいる。
本題の情報漏えい事件に戻る。ほぼ同時にふたつのルートから、顧客の個人情報を取得したことをもって、恐喝される事態に陥った、トップを委員長とする危機管理チームは当初、いい知れぬ恐怖感に襲われた。
同一犯人によるものなのか、あるいはふたつのルートはそれぞれ犯罪者集団が異なるのか。
最初に脅迫してきたグループは、危機管理チームの一員と接触して、警察との協力のもとに、金銭の取引を条件として、400万人分を超える個人情報が入った、記録媒体を受け取った。
この時点で犯人グループは、会社として警察に届け出て捜査に協力していることを知らない。
危機の発生に際して、トップが指示した三つの方針を達成する端緒についたわけである。方針とは、①悪に屈しない②(対外的に)嘘をつかない③二次被害すなわち個人情報が犯人グループの手から第三者あるいは、ネット上に流出するのを防ぐ、であった。
手に入った記録媒体の個人情報の分析と、個人情報のデータベースに接触した記録などから、業務委託会社の社員が浮かび上がった。
この男は恐喝あるいは、個人情報を盗み出したことによって、逮捕されたか。「刑法の壁」に突き当たって、この男は逮捕を免れたのである。
刑法上、窃盗は「財物」を盗むことが、犯罪の構成要件である。明治時代に電力網が張り巡らされるようになった時、いわゆる「電気泥棒」が現れた。電線から勝手に線を引いて、電気を使用したのである。従来の財物とはみなされないことから、刑法改正によって、電力を財物とする、としたのである。
個人情報は財物ではない。犯人が個人情報を会社の紙に印刷して持ち出せば、この紙を盗んだという容疑によって、窃盗犯で逮捕することができる。
調査チームが突き止めた男は、社外からいわゆる「踏み台サーバー」を悪用して、データベースにアクセスして瞬時に記録媒体に落とし込んだのである。
この男は、ネット上のペンネームともいえる「ハンドルネーム」でインターネットに関する評論を書いていた。
事件の全体像がみえた時点で、記者会見したトップは、記者の質問に答える形で、この男のハンドルネームを明らかにした。
このような行為によってしか、情報漏えい事件の実行犯の社会的責任を問えなかったのである。
(この項続く)
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