サイバー空間の企業に対する攻撃は激しさを増しいている。
ほまれもなく、そしりもなくその組織の防衛にあたっている広報パーソンには、ネットについての知識がますます重要になる。
わたしが遭遇した、ソフトバンクのインターネット接続サービス会社の個人情報漏えい事件は、その意味では企業社会にその警告をはなった最初の出来事であったろう。
反社会的勢力を含む犯人グループに対して、警察とともに彼らの握っている個人情報の奪還と、さらにそれが流出して起きる二次被害を防ごうと、懸命の攻防戦を繰り広げているさなかに、もうひとつの個人情報をめぐる恐喝事件が発生したのだった。
二つ目の事件の犯人は、匿名のメールによって、金銭を要求してきた。
経営トップを中心として、自然発生的にできた危機管理チームは七人だった。
恐喝のメールに、わたしたちは驚愕した。ふたつの要求ルートの裏はひとつなのか、別々なのか。
警視庁のサイバーにからんだ事件を取り扱う専門の部署である、通称「サイバー・ポリス」は立ち上がったばかりの時期であった。
わたしたちの危機管理チームのなかには、インターネット企業であるから、ネットの専門家はいる。そのメンバーのもとに、個人情報の漏えいルートを特定する特別チームが編成された。
危機管理コンサルタントの田中辰巳によって、「役者不足」の記者会見といわれた、広報室長のわたしだった。
あらゆる批判の矢面に立つのは、広報パーソンの宿命である。
広報部門がその組織の盾となって、レピュテーションのショックから立ち上がろうとする組織の努力を支えなければならないのである。
特別調査チームを指揮した専門部署のトップは、事件が収拾するまでに十キロ近く体重を減らしたのだった。その心中はいまから振り返っても余りあるものがある。
責任感のあるテクノクラートのために、広報パーソンの存在は必要不可欠である、と確信している。
警察の捜査上の機密に触れかねないのと、再発防止の観点から、特別調査チームがどのようにして、犯人に迫ったのか、その詳細について述べることはできない。
ただ、ふたつの恐喝ルートが別々であり、かつ、個人情報を手に入れた人物をそれぞれ特定することに成功したのであった。
最近の事件として、脅迫メールの犯人について、サイバーの技術と、ネットワークを巧みに使ったことから、捜査当局が誤認逮捕する出来事があったことは、読者の記憶に新しいところだろう。
ソフトバンクの個人情報漏えい事件から八年余りが経過して、サイバー上の犯罪者はより技術を習得しているとはいえよう。しかしながら、誤認逮捕に関するメディアの情報を読むにつけ、「踏み台サーバー」など、特別調査チームが恐喝の犯人を追い詰めていった過程で聞いた用語が頻繁に現れていた。
彼らが追い詰めた犯人は、業務委託と派遣社員だったのである。
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