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現代女優論   ミムラ

2012年11月16日

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コメディアンヌ ミムラ誕生

 小学校の教師である小守絵美(ミムラ)は6年間つきあった、同僚の男性教師と婚約して結婚間近であった。学芸会の舞台の準備をふたりでしているときに、相手から突然別れを切り出される。

 平凡だが幸せだった日常が崩れる。

 ミムラ演じる28歳の女教師は、ネットに依存している。日々の悩みをブログに書き込み、それに対する励ましによってひと時の安心を得ている。

 担任をしている児童を軽くしかったことをきっかけにして、ミムラの人生はまったくこれまでとは違った方向に向かっていく。

 それがドラマのスターティングのショットである。

  NHKよる☆ドラ「恋するハエ女」の第1回(2012年11月6日)と第2回(同月13日)を観た。

  ミムラのブログの書き込みにある日、ポルトガル語で「ハエ」を意味する言葉が書き込まれる。ネットで調べると誹謗中傷する意味があることがわかる。

 無視していると、その相手は、ネットにミムラが書き込んだ内容をもとにして、彼女のほとんどすべての個人情報を明らかにしてみせる。氏名、生年月日、住所、携帯電話そして、最近ネット通販で購入した真っ赤な下着まで。ミムラは驚きのあまり、胸を隠すしぐさをみせる。

  ミムラの最近の出演作品としては、朝の連続テレビ小説の下村松子の役であろう。「梅ちゃん先生」の姉役である。父母思いで、梅子に対してもあたたかい眼差しを注ぐ年上の落ち着いた役を演じた。ちょっとコミカルな梅ちゃんの堀北真希との姉妹コンビは、つい最近終わったばかりだというのにいまでは懐かしい。

  「ハエ女」のミムラの役どころは、人生の失敗の連続のなかで涙をうかべながら、なんとか生きていこうとするのだが、ふたたび予想をしない悪い事態に追い込まれていく。そのドラマの進行のなかで、観ているものからすると、コミカルにみえる。つまり、コメディアンヌである。

  ミムラは本来、その美貌ゆえに、「梅ちゃん」先生の松子のようなしっとりとした美人役がこれまでの出演歴のほとんどを占めているようにみえる。

 大河ドラマ「江」では、過去の映画やドラマで美貌の女優が演じる細川ガラシャを演じたことからもよくわかる。

 そのミムラがコメディアンヌの才能を豊かに花開かせそうな予感がするのが、この「恋するハエ女」である。

  ネット上の情報によって、ミムラをストーカーのようにつきまとっていた男はついに、ミムラの携帯電話に通話してくる。

  児童を叱った際に「バカね」と軽くいったことが、教師をつるしあげるモンスター・ペアレンツの攻撃をあびる。PTAの臨時会議で、ミムラは矢面に立たされることになる。

  ミムラが「ストーカー」と携帯のアドレス帳に登録した謎の男性は、「あやまることはない。あやまることは甘えることだ。そんなことをしていると、ただただ歳をとって不幸な人生に陥る」と、繰り返し電話をかけてくる。

  ストーカー男はある日、ミムラの個人情報をあばいた代償として、自分の名前も職業、住所、携帯電話番号をミムラに明かす。

 彼の個人情報が、あっという間にネット上に流出してしまう。

 筧の仕事は、首相のために、野党の情報を探ることになった。情報流出によって、それは困難になる。

  ストーカーの正体は、総理大臣の直属の高級官僚だった。内閣情報調査室の八重樫修治(筧利夫)である。

  第2回で、筧はミムラに正体を明かして、婚約を破棄された彼女に恋愛のてほどきをはじめる。ネット上に勝手にミムラのホームページを立ち上げて、交際相手を募集してしまう。タイトルの「八股をかけろ!!」のように、8人の男性との交際が始まる。

  ミムラが気に入ったのは、うさぎ好きの公務員の吉田純一(中村靖日)であった。高裁は順調に進んでいたかにみえたが、ミムラが八股をかけていたことを知って、中村は怒り、キャップ中にチェーンソーを持ってミムラを追う。

  「もてて大変だね」と携帯電話でからかう筧。その彼も、自分の個人情報が洩れて、仕事ができなくなり、ついに辞表を提出する。

  筧とミムラは、いまのところネット上のつながりだけにすぎない。演出は画面にふたりを登場させて、あたかも同じ場所で話し合っているかのように、ドラマを展開する。

 ネット社会の現実をとらえた、ある種の社会批評のぴりっとした隠し味のうまみもある。

 シリアスな芝居よりも、喜劇を演じるのが難しい。逆に深刻な劇だからこそ、コメディアンとコメディアンヌのようなちょっとほろ苦い味わいが必要なのである。

 コメディアンはあなどれない。渥美清を持ち出すまでもないだろう。

寅さんだけが、彼の代表作ではない。山田洋次監督の「家族」など一連のシリアスドラマでは脇役ながらも「山田組」には欠かせない。

 コメディアンは、シリアスな芝居もできる。シリアスな演技者がコメディアンをできるわけではない。

  ミムラのコメディアンヌ誕生をよろこぶ。

  (敬称略)

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