経済事件記者と呼ばれた時代があった。バブルの崩壊の過程で、企業はさまざまな事件に遭遇した。国家権力による捜査と一体となって取材を進める、社会部の調査報道に対して、企業の内部から事件に迫ろうと試みた。
リクルート事件にもめげずに実は、同社は業績を拡大していた。しかし、マンションなどの不動産投資が行き詰まる。
非上場企業の財務諸表を手に入れるのは当時、容易ではなかった。しかしながら、経済部の経営分析の手法によってこうした数字を追っていくと、リクルートの苦境が浮かび上がった。
リクルートコスモスが手がけて、売れ残ったマンションも、現地にいってみた。
そして経営陣に対する徹底した、インタビューである。
「4年目に吹く逆風」と題した記事が掲載された直後、リクルートはダイエー傘下に入った。
関西の中堅商社であるイトマンを舞台とした数々の経済事件は、日経新聞の調査報道によって、反社会的勢力と銀行の深い闇が明らかにされた。その軌跡は「ドキュメント イトマン・住銀事件」(日経新聞社)に譲りたい危機管理を担う。広報パーソンの必読の書である。
わたしはやはり朝日ジャーナル誌上で、セゾングループがイトマン事件をはじめとする、バブル崩壊のなかで経営が悪化している実態に迫った。
こうした反社会的な勢力と企業の関係を探った経験が、のちに生きる。バブル崩壊後、金融機関が機能不全に陥った、1990年代後半ことである。住宅金融専門会社(住専)に対する公的資金の投入問題で、世論は大きく揺れていた。
「ヤクザ・リセッション(不況)」―金融不全の裏に、闇の勢力の存在が大きいことを最初に指摘したのは、初代内閣広報官で評論家の宮脇磊介氏であった。
住専問題の取材に取り組んでいたわたしは、宮脇氏のインタビューを試みた。(1995年11月29日付・朝日新聞朝刊)
ほまれもなく、そしりもなく企業の防衛にあたっている、広報パーソンに、あのときの宮脇氏の言葉はいまも色あせてはいない。
「暴力団は『起業家』で、その時代にもっとも効率よくもうかる分野に力を入れる。バブルの時代は金融だった。暴力団対策法(暴対法)と不況によって、暴力団が経済犯罪に乗り出しているようなことがいわれるが、そんな生易しいものではない」
この言葉を胸に刻んでその後、大阪に赴任し、チームを率いて取り組んだのが、関西を舞台とする経済事件の真相を探ったシリーズだった。「なにわ金融事件簿」(かもがわ出版)としてまとまっている。
こうした経済事件を追っていたときには、自分自身が反社会的勢力と対峙しようとは思ってもみなかった。
ソフトバンクグループのADSLサービスの子会社で起きた、個人情報漏えい事件である。
企業としてどこに問題があったのか、調査してもらう外部委員会の委員長に迎えたのが、宮脇氏であった。
(敬称略)
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