ブログ

コラム

このエントリーをはてなブックマークに追加

 エルネオス 田部康喜 「広報マンの攻防」 寄稿

   ネット・メディアに対して、どのように臨むのかは、広報パーソンにとって課題となって久しい。

 インターネットの先端企業の広報室長に就任した十数年前、ネット・メディアの若手記者が大手新聞社から転職した経歴の持ち主であることを知ったときには、いささか驚いた。それもひとりではなかった。

 彼らが書いている記事の影響力については、部下たちから学んだ。一般的な新聞は若者たちの読み物ではなかったのである。

 時代はさらに進んでいる。「キューレーション・サイト」と呼ばれるネット・メディアの「グノシー」はいまや上場企業である。「キューレーション」とは、博物館や美術館の学芸員が展示物を目利きするように、ニュースを集めてみせる、意味である。

 大手新聞や雑誌の記者や編集者から、こうしたネット・メディアへの転職の流れは強まる一方である。この分野の起業の動きもある。

 ネット・メディアの真贋(しんがん)を見極める方法はあるのか。ネット・メディアの質に関する重大な事件が起きた。

 IT業界大手のDNAが運営する「キューレーション・サイト」が閉鎖に追い込まれた。最初に問題になったのは、健康サイトの「WELQ」サイトだった。医療情報に関して、専門家の点検を受けずに、誤った記事が掲載されたのである。最終的には旅行に関するサイトなど、計九サイトが閉じた。

 これを発端にして、リクルートホールディングスもアニメに関するサイトなど、計四サイトのほとんどの記事を、サイバーエージェントも同様の措置を取った。

 こうしたまとめサイトの記事がどのように作られていたのか。ネットに詳しい、個人投資家・作家の山本一郎氏の論考はメディア業界全体にも衝撃を与えた。

「リライトツール」と呼ばれるソフトが、元凶である、と山本氏は指摘している。ネット上で一万五〇〇〇円から四万円で売られているという。

 このツールが要求する基準によって、ネット上の情報を入れ込むと、自動的に何種類ものリライトした原稿ができる、というのである。

 さらに、山本氏は「これらのシステムを転がすだけでは……マウスをポチポチやらないといけません。なので、コピペとリライト作業をもっと効率的にするために『お目当てのキーワードを入れるだけでネットから品質の高い記事をコピーしてきてリライトソフトにぶち込んでくれるBОT』が出回ることになります」という。BОTとはロボットである。

 山本氏によると、こうしたBОTとリライトソフトの組み合わせで、一日二時間サーバーを稼働させるだけで、約二〇〇〇字数の記事が三〇〇本できるという。

 既存のメディアの世界でも「ロボット・ジャーナリズム」は最近の論点である。AP通信が企業の決算報道に当たって、単なる決算単身はロボットに任せ、記者は深い分析記事を書く体制を整えつつある。

 広報パーソンが向き合うのは、血が通った記者ではなく、BОTである時代である。

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

フジサンケイビジネスアイ 寄稿

築地移転延期と新国立問題の深層

 東京湾横断する新交通ゆりかもめの市場前駅に近づくと、巨大な建物が車窓を覆う。「11月7日 豊洲市場 開場!」の白い横断幕が台風一過の青空に浮かび上がる。駅の改札口を出ると、新市場に新橋からつながる環状2号線をまたぐ陸橋の工事現場が見えた。

 復路は、汐留駅で乗り換えて大江戸線で地下に潜る。沿線は勝どき橋東地区をはじめ、再開発計画が目白押しだ。国立競技場前駅で下車してみれば、白いフェンスに囲われたなかで、新国立競技場も建設が進んでいる。東京都の小池百合子知事はこの日、8月31日に築地市場から豊洲市場への移転の延期を発表した。

 「東京大改革」を掲げて当選した小池知事が焦点を当てているのが、豊洲市場の移転問題と東京五輪の巨額な施設と運営費用である。外部の有識者を入れた特別チームを編成して問題の解明に当たろうとしている。

 ここで小池知事が見失ってはならない視点は、個別の問題を掘り下げることも重要であるが、都の財政が再開発に大きく頼っている構造である。神戸湾内に人工島のポートアイランドなどを建設した「株式会社神戸市」にならっていうならば、「株式会社東京」は再開発至上主義に陥っている。都市整備局によれば、都内の再開発地区は7月末時点で219地区。都の税収を税目別の構成比率でみると、法人事業税・法人住民税と個人都民税は、経済の動向を反映して伸縮が著しい。

 これに対して、再開発にともなって増える固定資産税・都市計画税は3割前後で安定している。2015年度において都税収入の総額5兆216億円のうち、固定資産税が1兆1254億円、都市計画税が約2174億円に上る。

 都が主導する再開発計画によって、インフラの整備を進めれば地域の地価が高騰して固定資産税・都市計画税が安定的に入る。開発業者にとっては道路や地下鉄の延伸は大きなメリットである。再開発の認可には都議会が力を持つ。都の官僚たちにとっては人件費の確保につながり,天下り先が生まれる可能性もある。

 新国立競技場の建設にともなって、都は周囲の再開発予定地区の容積率を増大させた。豊洲市場向かう環状2号線は、そもそも関東大震災後の帝都復興計画にさかのぼる。新橋から神田佐久間町までの約9.2キロだったのが、1993年に起点が江東区有明に延伸された。

 再開発至上主義の構造から脱却する政策は、「成熟都市」や「安心・安全」といった美辞麗句が並んだ都の「東京都長期ビジョン」ではなく、都市計画の大きな目標を掲げた見取り図が必要である。さらに、海外で成功した都市計画について、北海道大学の越沢明名誉教授は「インフラ整備の負担を一定のルールにしたがって受益者(地権者)に課すことが多い」と述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

SankeiBiz  高論卓説 2016年12月5日 寄稿

 福島沖地震が11月下旬に発生して東北沿岸を津波が襲い、東日本大震災の被災地は5年前の衝撃が蘇った。東北大学の研究チームよれば、宮城県東松島市の漁港では津波の高さは、平常の海面よりも3mも上回って、漁港の地面からは2.2mに達していた。

 宮城県仙台市と石巻市を結ぶ仙石線に乗って、東松島市の野蒜(のびる)駅に降り立ったのは、この地震の10日前のことである。東日本大震災の津波によって、仙石線が大きく分断されたのは、名勝・松島を望むように海岸を走っていた矢本駅(東松島市)-松島海岸駅(松島町)間であった。

 仙石線が全線復旧したのは2015年5月。復旧区間は内陸部に400mから500m入り込むように線が敷かれ、野蒜駅も高台に移転した。旧野蒜駅とプラットフォームなど、その周辺は震災遺構として保存が決まっている。私が目指したのは、旧野蒜駅舎を利用して一足先に10月にオープンした「震災復興伝承館」である。

 新駅と旧駅がある市街地とは、地下通路を通じて結ばれる予定だったが、未完成のために訪問当時は大きく迂回する坂道を30分以上も下った。

 旧駅に着いた。改札口の壁の上部に、津波が達した3.7mの赤い線が引かれている。「伝承館」には、東松島市の歴史や震災の状況、復興の歩みを示す解説の写真や、巨大地震が発生した瞬間に止まったままの小学校の大時計などが並んでいる。

 震災地の「記憶」遺構の先には、新しい町を築き上げようという息吹がある。東松島市は震災後のがれき処理において、市役所と建設業者などが当初から協議して、金属や木製のがれきを分別して、収集した。その結果、全量約110tの約99%をリサイクルに成功するとともに、がれき1t当たりの処理費用が格段に安くなった。

 この経験の延長線上に「防災エコタウン」作りが進んでいる。地域の病院や集会所などを対象にして、太陽光発電などを活用してエネルギーの「地産地消」を図ろうという試みだ。小学校の再建にあたって、木造建築を目指すだけではなく周囲に森林地帯を作ろうというプロジェクトも進んでいる。

 仙台市の地下鉄東西線の終点である荒井駅には、2月に開業した「せんだい3.11メモリアル交流館」がある。仙台平野を襲った巨大津波は、この駅がある荒浜地区において沿岸と内陸部と分けるようにして構築されていた、バイバスが堰の役割を果たした。「交流館」には津波が襲って跡形もなくなった、沿岸部の記憶を残そうと手作りのジオラマがある。「鈴木さんの家」「玉ネギ畑」……と手書きの小さな印が立っている。

 荒浜地区は漁業の町でもあった。赤貝やナマコ、ワタリガニの宝庫である。漁師として再び海に向かう人々のインタビューが、大型映像装置から静かに流れていた。

 震災地は、「記憶」をとどめながら、新たな地域振興に歩みだしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

ELNEOS 8月号 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 メディアが取り上げる経済記事について、日本経済新聞の報道が先行するつまり特ダネとなる「日経ファースト」について考えてみたい。

 ここでも、新聞記者出身である視点と、広報パーソンの視点のふたつを区別すると同時に、ふたつの視点が交錯するところに真相を求めたい。

 まず、特ダネとはなにか。一般的には、報道する事象がライバルに先行することをいう。

 世紀のスクープとなった、NHKによる、天皇陛下が生前譲位の意向を示されている報道が最近では群を抜いている。

 特ダネとは、このように情報をもたらしてくれた人物と、取材者が一対一の信頼感に基づいて、情報源を決して明らかにしない、と定義できる。

取材者に対して、チームのプレイングマネジャーであるキャップも、原稿を精査するデスクも原則として取材源が誰であるかは、聞かないものである。

 ところが、取材先が意図的に取材者に事案の詳細をレクチャーする、つまりリークする、その結果としてライバルに先行する場合がある。新聞記者時代に、私はこうした記事は、自分の基準として「特ダネ」とはカウントしない、と考えていた。

 ところが、そうではない、という考えもあるのだということも知っていた。

 ある日、同僚たちと会合を開いた際に、次のような発言があって、その場の空気がなんともいえぬ沈黙に包まれた。ある官庁の政策に関する記事の件であった。

「特ダネだったのに、デスクが一日寝かせたので、他紙に書かれてしまった」と。

 同僚の担当した官庁は複数社にリークしたのであろう。それでも、同僚は自分の記事を「特ダネ」という。リークは特ダネではない。

 ちょっと脇道に入って、官庁や企業はなぜリークをするのか。官庁ネタで多いのは、政府予算の概算要求が出そろう八月末にかけての時期が多い。

 予算獲得のために、与党の部会や財務省に説明する際に、大手紙の一面を飾った記事はそれなりの重みがあり、官僚が作った説明資料を簡にして要とする表現でまとめてあるので、予算折衝がやりやすい。

 それでは企業はなぜか。株式市場では、全国的なメディアふたつにその企業の情報が掲載あるいは放送された場合、その情報は公知のものとみなす。この基準に基づいて、企業の経営戦略からリークが発生する。

 経済報道において、経済専門紙である日経の優位性は、その人員の配置からライバルから卓越している。

 大手紙の流通担当がひとりあるいは複数にすぎないところに、消費産業部がある。日経に金融部があるのにたいして、他紙は証券と金融に複数の配置をしているにすぎない。

 ここに「日経ファースト」が生じる土壌がある。

 しかし、日経が取材の目的に定めた土俵が経済のすべてではない。日経の視点とは違った特ダネはたくさんある。こうした割り切りができない記者は、日経の背中を追うばかりで、その前に出られない。

          (この項続く)

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

寄付から持続性ある産業育成へ

フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 寄稿。

 東京・表参道に近い国連大学本部の広場は、週末のファーマーズマーケットがすっかり風景になじんできた。全国各地から野菜やはちみつ、特産品の出店があり、いまでは外国人向けのガイドブックに紹介されるほどだ。

 そんな国連大学のセミナー室で10日に開かれた報告会は、広場の賑わいにふさわしい。東日本大震災後に、福島県いわき市にあるNPOのザ・ピープルが取り組んできた、有機栽培の木綿について、現地の栽培農家やこの活動を支援してきた企業と、ボランティアとして参加した人々が集まった。

 受付の入り口には、有機木綿を原料にした手ぬぐいやTシャツなどが展示、販売されていた。今春の種まきで5回目の栽培に入る。首都圏での報告会は初めてである。

 NPOの代表の吉田恵美子さんは、それまでの活動の中心だった、古着のリサイクルの延長線上で被災者に対して衣類などを提供した。その過程で農家が原子力発電所の事故による風評被害によって、生産物が売れなくなって耕作放棄地が広がる現状につき当たった。首都圏のボランティア団体との交流のなかで、有機木綿の存在を知り、いわき市での栽培を思い立った。地元の農家に栽培の経験者は皆無でゼロからのスタートだった。

 吉田さんは「地元の私たちが事業を持続させるために努力すると同時に、首都圏の企業やボランティアの方々の協力なくして、報告会を開くまでこぎつけることはできなかった」と、挨拶した。大手流通企業などが栽培の手伝いにボランティアを送ってきた。木綿畑の一部の運営費を出資するだけではなく、従業員を送ってくる銀行もあった。ボランティアの数は、延べ1万5000人に及ぶ。栽培地は、いわき市から隣町の広野町や南相馬市などにも広がっている。「ふくしま潮目」というブランドで、都内の大手百貨店で販売会を開くまでになった。

「木綿製品の企業の方から、コストや在庫についてアドバイスをもらったのが力になった」と、吉田さんは感謝する。

 東日本大震災後の企業のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)活動は、被災地に対する単なる寄付ではなく、新しい持続的な産業を育てる方向に大きく変化している。キリンビールグループによる「キリン絆プロジェクト」は、持続的な農林水産業を育てる基本的な戦略を立てている。地元の特産物を掘り起こして、市場にどのような手法で投入すれば、売れるのか。マーケティングの側面のノウハウを支援する。福島県産の梨を原料にした自社製品の飲料なども開発した。

 三菱商事復興支援財団は、福島県郡山市でワイナリーの設立を支援して、今春ロゼのスパークリングワインとシードルの初出荷にこぎつけた。三菱商事はぶとう栽培のボランティアに従業員を派遣した。

 CSRの対象の持続性に注目した活動として、米国ではCSV(Creating Shared Value)という新たな概念が提唱されている。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加