ブログ

コラム

このエントリーをはてなブックマークに追加

「梅ちゃん先生」は青春ドラマの定番だった

  東京・表参道の地下鉄の駅は、新番組のドラマの広告が通路の壁を覆わんばかりである。夏日の気温を記録する日もあって、通り過ぎる若い女性の服装は、季節に戸惑っているように、はっきりとした秋の装いではないようにみえる。

  フジテレビは「結婚しない」である。いつもの番組広告の壁に映像装置が組み込まれて、主演の菅野美穂と天海祐希が、せりふであろう、タイトルの言葉を大きな声で叫んでいる。街頭広告は通りすがりの人の視線をとらえるのに、わずかな瞬間に賭ける。ポスターから進化した番組宣伝であることに感心する。

  「Wの悲劇」の武井咲は、日本テレビの「東京全力少女」の主役である。斜め上からの角度で撮影した、武井のポスターから飛び出しそうなスチルもまた、なかなかこっている。

  人気女優たちは、季節の改編期を迎えるごとに、テレビ局を移動しては新しい役に挑戦している。

 東宝と日活の青春映画のスターたちが、上映期間をまたぐようにして、次々と新作のクランクインを迎えていたように。

  朝の連続テレビ小説の「梅ちゃん先生」は、その人気の故に、ちょっと変わった路線をとった。

 最終週の「上を向いて歩こう」は、24日から29日まで。梅子の父親の下村建造が、NHKの素人のど自慢に参加して、坂本九のヒット曲であるタイトルを歌うシーンに登場人物たちが、梅子の家に集まってみるシーンがエンディングへの助走であった。ラストシーンは、梅子と夫の信郎が咲き始めた梅を見上げる。小さな花ではあるが、春を告げて人々に明るさをもたらす、名前にこめられたその花を夫婦でながめるのであった。

  「梅ちゃん先生」スペシャルは、BSプレミヤの枠で、「結婚できない男と女」がテーマである。10月13日(土)午後9時からの前編をみた。後編は、20日(土)午後9時からである。

  ときは昭和37年(1962年)、東京五輪に向けて、日本はその準備のなかで、高度経済成長にかけあがっていこうとしていた。

 梅子夫婦は、結婚から6年がたって、ふたりの息子がいる。診療所の経営は、周囲の人々の評判に支えられて順調である。信郎の町工場も開通の準備が進む、東海道新幹線の車両の重要な部品を受注して、忙しい。

 ふたりの間に、倦怠期の夫婦のすき間ができてきたようである。

 信郎の工場を取材に訪れた、雑誌の女性記者が信郎にほのかな好意を寄せる。

 そして、梅子の働いていた帝都大学医学部の研究室でも。友人の女性医師が、新人の研修女医と、同僚の男性をめぐって、恋のさや当てに発展しそうな雲行きである。

  朝のシリーズでは描かれていない、男と女の不倫の疑惑と、嫉妬が描かれている。「梅ちゃん」先生の成功は、それぞれの登場人物が新たなドラマを作り出していけることを示しているようである。

  テレビ朝日の人気ドラマで、秋の改編によって、水谷豊の相手役が入れ替わった「相棒」でも、鑑識係を主人公にした、いわゆるスピンアウト・ドラマが製作されている。

  梅子と信郎の夫婦の物語は、年齢を経るにして新しい展開をみせる。

 父親の下村建造は、大学を退官後、千葉の病院長として夫婦で家をでたが、ときどきは戻ってくる。

 つまり、三世代同居、そして、娘の夫、息子の妻、そのこどもたちが多く集まるシーンは、スペシャルでも変わらない。

  「梅ちゃん先生」は、東日本大震災で日本人が改めてその大切さに気づいた、家族の愛の物語であった。梅子を演じる、堀北真希が昭和生まれの女優であったのは、偶然ではない。堀北が終戦直後のシーンと、大震災後の風景を重ね合わせてみていることについては、このコラムのシリーズですでに述べた。

  今回のスペシャルをみると、「梅ちゃん先生」が改めて、「青春映画」の定番だったことに気づかされる。

 そして、地下鉄の駅の壁に張り巡らされた、ドラマのポスターの脇を通り過ぎながら、どこか懐かしさを感じていた理由もわかったのである。

 若い女優と男優が織りなす、テレビドラマは、「青春映画」である。

 それは、高度経済成長時代に、道路の脇の家の壁に映画のポスターが貼ってある光景と同じである。

 「梅ちゃん先生」の人気の底流には、シニアがかつてみた「青春映画」の残像が二重映しになっている。

 堀北真希の表情と、若き日の日活青春映画のスターである、浅丘ルリ子が重なる人もいるだろう。あるいは、東宝の酒井和歌子であろうか。

 わたしはどうか。内藤洋子であろうか、あるいは山口百恵であろうか。

  そして、現代のテレビの女優たちは、軽々と映画の境界を越えて、スクリーンとテレビの間を往復するのである。

  「梅ちゃん先生」を終えた、堀北真希はその後、映画「県庁おもてなし課」のクランクイン、11月にはクランクアップの予定のようである。高知県庁に実際にある課の物語である。

  さて、「梅ちゃん先生」スペシャルの後編で、梅子と信郎の浮気騒動の行方はどうなるであろうか。そして、梅子の親友たちの群像が繰り広げる、恋愛劇のドタバタは。

                                                                   (敬称略)

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

「Shall we ダンス?」から16年   どこへ向かうのか?

 中年のサラリーマンである役所広司が、帰宅中の満員電車からみあげると、ダンス教室の窓辺にたたずむ草刈民代に気づく。途中下車をして、役所がダンスを習いに通うきっかけである。

  草刈の映画デビューとなった、「Sall we ダンス?」(1996年)の登場シーンである。世界的なバレリーナとして知られていた、草刈はこの作品によって、数々の映画賞を受賞した。

  ダンス教室の教師役を演じた、草刈の清楚な美貌とダンスシーンの美しい印象があってのことであろう。

 バレリーナの演技力は十分であったにしても、女優のデビューは30歳代に入ってからであった。メガホンを握り、夫となった周防正人監督の慧眼に驚いた記憶が蘇る。

 あれから16年、草刈が実年齢の主婦を演じる。NHK「眠れる森の熟女」である。9月4日にスタートし、9回の完結予定である。

 第3回の「王子様は、二重人格」と第4回「女の人生、やりなおせますか?」を観た。

  草刈が演じる相沢千波は、銀行に入社し、夫と知り合って結婚、息子が生まれて幸せな生活を20年近く過ごしてきた。

  夫がある日突然、離婚を言い出す。ソーシャル・ネットワーク・サービスをきっかけに、交際が始まった中学校の同級生と再婚したいというのである。相手は女性誌の編集長である。

 そのショックからホテルのバーで酒によって、泥酔してしまった草刈が、解放してくれた匿名の男性によって高級ホテルの掃除婦として働くようになる。その男性の名前も顔も知らない。草刈は、ホテルの総支配人の秘書を通じて、その男性に手紙を書くようになる。

  実はその男性とは、その高級ホテルのオーナーの長男である総支配人の高岡裕輔役の瀬戸康史である。第3回のタイトルの「王子」とは、瀬戸である。従業員からそう呼ばれている。草刈とは20歳近くも若い。瀬戸は、自分が雇い主であることを隠して、草刈に返事を書く。

  この手紙のやりとりが、草刈と瀬戸の心理ドラマの重要な小道具となっている。古風な文通によって、あるときは励ましとなり、またあるときには気持ちのすれ違いを表す手法は新鮮である。

  瀬戸は徹底した合理主義者である。お客や従業員に対してはにこやかな好青年ぶりを発揮している。それは計算しつくされた演技である。

 第3回のなかで、草刈がたまたま客室の廊下で聞いた母子の会話から、宿泊しているその父親が誕生日であることを知り、その話を聞いた瀬戸が、バースデーカードと花を届けた後のシーンである。総支配人室に入っていた草刈に気づかずに、お客がよろこんだことを知らせる秘書に対して、瀬戸は「こころがこもっていなくても客が喜べばいい」という。

 それを聴いた草刈は愕然とする。

 第4回で、瀬戸が政略結婚の相手とバーで飲むシーンがある。愛のない結婚であることに、相手も納得している。瀬戸の複雑な家族関係が暗示される。

  「Sall we ダンス?」のなかで、草刈を一気にスターダムに押し上げた、あの清楚な美しさは、「森のなか」の主婦の表情からは消し去られている。しかしながら、瀬戸との関係が深まる予感が漂いはじめ、その草刈が美しさを輝かせる瞬間がくるであろうと思わせる。

  第4回のタイトルは、夫を奪った女性編集長の雑誌の特集の「女性はやりなおせる」と言葉遊びのように、合わせたものである。女性編集長は、雑誌に顔写真が掲載されている。その雑誌をみて、草刈は初めて夫の相手の顔を知る。

  女性編集長が、仕事の忙しさから草刈が働く高級ホテルの一室を昼間使ってリフレッシュする。その部屋の掃除にきた草刈は、忘れ物の携帯電話をみつける。編集長が部屋にあわてて戻ってくる。鉢合わせした草刈が、立ち去ろうとする彼女を呼び止める。

 「女性はいくつになってもやりなおせるのでしょうか?」と。

 「雑誌を読んでくださったのね」と彼女はこたえる。

 草刈は続ける。

 「大事なひとと20年も過ごした暮らしを奪われても・・・・」

 相手は、草刈が誰であるかを悟る。そして、深々と詫びの礼をする。

  「もう行ってください」

 草刈がそういった瞬間、カメラは、ふたりの足元をクローズアップする。編集長は派手なヒールである。草刈は掃除婦であるから、仕事用の底の低い靴である。

  この出来事があって、草刈は、瀬戸に手紙を書く。「女の人生は、やり直せますか?」と。やり直せる、という返事を期待して。

 瀬戸は書く。「やり直せない」と。そして、「そこから出発することが大切です」と加える。

 翌日、職場で生き生きと働く草刈のシーンと、それをみる瀬戸の表情のアップで、この回は終わる。

  草刈のミュージカルのデビュー作である、「9時から5時まで」を東京の銀河劇場で観たのは、今春のことである。宝塚出身の紫吹淳を相手役に回して、子持ちの未亡人のバイオレット役を歌と踊りで堂々とこなしていた。

 バレリーナ引退の舞台で全国を回った直後、新劇の舞台にデビューしたのは2009年のことである。

  遅咲きの女優である、草刈民代はどこに行こうとしているのであろうか。楽しみである。

                                                                                                                                                               (敬称略)

 WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

宝塚の娘役が花咲く時代とは

  「黒い十人」のタイトルでまず、もしや、と思う。街頭の黒木瞳がストップモーションで一瞬止まり、そのコマが飛んで。やはりそうだ。

  NHK BSプレミアムのドラマ「黒い十人の黒木瞳」の冒頭シーン、市川崑監督の手法である。このドラマは「黒い十人の女」(1961年)に捧げる、オマージュの刻印が押されている。

  この映画の2年前、市川は日本テレビの演出顧問となり、当時は一般的であった生放送のドラマ「恋人」を製作した。63年まで9作品を演出している。

  「黒い十人の女」は、テレビドラマを製作した経験が生きている。主人公の船越英二はテレビ局のプロデューサーである。美貌の妻の山本富士子に、愛人たちがからむ。女優役の岸恵子、CMガールの中村玉緒、ディレクターを目指している岸田今日子……。

  草創期のテレビ局の喧騒と熱気を背景として、船越をめぐって十人の女たちの個性がぶつかり合う。山本富士子が船越英二をピストルで偽装殺人する事件から、ドラマの展開はスピードをあげて、宮城まり子の自殺に至る。

 場面の転換は、芥川也寸志の女の情念がうねるかのような音楽である。

  「黒い十人の黒木瞳」の演出家は、市川監督らしいスピード感にあふれる映像の転換と、テンポのよい会話が連続する、あの映画の魅力を十分に知っている。

 脚本と演出は、タカハタ秀太である。映画からテレビのバラエティー番組、CM製作と活動の場は幅広い。

  タカハタは、十人の女を黒木瞳ひとりに演じさせる。放映時間の1時間30分のなかで、長短10本のドラマが展開する、オムニバスである。

 すべてに「黒い」のタイトルがつく。

  「黒い餃子の女」のなかで、黒木は高級マンションに住むサラリーマンの妻を演じる。夫の大杉漣はイカ墨のスパゲティが好物である。愛人の井上和香のマンションでそれを食べ、そして自宅に戻って黒木に作らせて同じものを食べる。

 井上は筆と墨を売る銀座の店の従業員である。黒木がその店を何度も訪ねて、最高級の墨を買う。

 大杉と井上が愛し合うきっかけの約束の言葉は「シェアする?」。現実の場面は省略されて、卓上カレンダーにピンクのハートマークがついていく。大杉を玄関から送り出す井上をカメラが後ろから撮影して、スタイルのよい彼女の姿をクローズアップする。

 自宅に帰った大杉は、黒木がいつものイカ墨スパゲティではなく黒い餃子を作っているので、ちょっと不信な表情を浮かべる。サラダを取り分けながら、黒木はいう。

 「シェアする?」

 餃子を黒木は食べない。大杉は、スパゲティも一緒に食べなかったことを思い出す。

 黒木は、黒い液体が入った調理用の容器をみせる。井上の店で買った墨を、黒木が硯でするシーンがフラッシュバックする。

  「黒い娘。二十四の瞳」は、黒木が本人と同じ福岡出身の24歳の娘役を演じている。父親は独身の娘を結婚させようと見合い話を持って、上京する。食事の途中も上司や取引先からひっきりなしに携帯に電話がかかってくる娘をみて、そのまま福岡に戻る。

 父親が幼馴染と思われる大杉に電話する。大杉の娘は黒木の友人で同い年である。携帯電話で話し終わったシーンが転換して、ホテルで大杉と黒木がたわむれるシーンで終わる。

  弁当づくりのパートを演じる「黒いパートタイマー」、道路の脇に座ってカウンターを持ってリサーチの人数を数える「黒いカチラー」、かつて愛人だった男の息子の婚約者としてその家に現れる、整形美人の「黒いママ~結婚~」……

 それぞれ楽しめた。ドラマが転換するごとに流れる軽快な音楽もまた、市川映画における芥川也寸志に対するオマージュであった。

  黒木はいうまでもなく、宝塚の娘役のトップスター出身である。その養成所である、宝塚音楽学校の時代に、いくつかの例外はあるものの、男役と娘役に分かれる。

 筆者の知り合いの宝塚出身の元娘役によれば、娘役は勝気で男性気質で、男役は逆に女らしいという。

 娘役の黒木はさっぱりとした性格のゆえに、どんな役でもこだわりなく、こなしているようにみえる。

  宝塚の娘役も男役もそのトップを極めれば、スターである。退団した後の活躍具合はどうであろうか。

 戦前から戦後にかけては、娘役の時代であった。黒澤明監督の「姿三四郎」で三四郎の藤田進があこがれる轟夕起子は、日活の石原裕次郎映画では母親役として欠くことのできない女優である。淡島千景、乙羽信子、月丘夢路……銀幕を彩った女優たちであった。

 男役の時代になる分岐点は定かではない。そして、その理由も考えなければならない、芸能史のテーマであろう。麻実れい、大地真央、天海祐希……

  時代は再び、娘役の時代に戻ろうとしているのではないか。黒木の活躍をみてそう思う。筆者の視野には、壇れいも入る。

  男役と女役のスターの変遷とその理由とは。筆者には残念ながら宝塚の観劇の経験がない。このテーマは別の方にお任せしたほうがよいようである。

 「黒い十人の黒木瞳」は、9月9日のNHK BSの放映をみた。再放送が待たれる。 

                                                                      (敬称略)

 WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

AKB48卒業    「マジすか学園」で演技力磨く後輩たち

  「最高の7年間でした」――社会面の白抜きの2段見出しが躍る。「あっちゃん AKB48卒業」の横見出しもついて。マイクと握って熱唱する写真のモデルは、アイドルグループのAKB48のトップだった、前田敦子である。

  8月27日、東京・秋葉原のAKB48劇場で、彼女は、女優に専念するためにグループを卒業するコンサートを開いたのだった。

   弱冠21歳の女性歌手の卒業コンサートは、社会現象となった。グループの本拠地である秋葉原のビルは彼女の大きな写真で覆われたようになり、街路には顔写真の列である。フジテレビのダウンタウンのレギュラー番組である「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」は当日、特別番組として卒業コンサートを実況中継した。

  山口百恵やキャンディーズの引退コンサートは、バブル経済に向かう熱狂の時代の風景としてよく覚えている。「失われた20年」をあとから振り返るとき、「あっちゃん」の卒業コンサートを思い出すのだろうか。

  「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」の特別番組の視聴率は、14%を超えて、前週の2倍だった。

   実況中継の前に、第1部として、前田とメンバーたちが思い出を語りながら、ヒットナンバーを歌う。第2部では前田を中心として、「会いたかった」、「フライングゲット」の初期のヒット曲から、「Everyday、カチューシャ」、そしてラストソングは、「桜の花びらたち」だった。

  メンバーたちはかわるがわる、前田の思い出を語る。板野友美は感情のもつれがあったことをわび、直前に仲直りをしたことを告白する。第1期生のオーディションに落ちて、ファンに飲み物をサービスする「カフェっ娘」から昇格した、篠田麻里子は、前田が暖かくメンバーに迎えてくれたエピソードを話したあと、抱きしめあって涙を流す。

  前田は終始、涙をこらえ、笑顔で卒業する思いを語り、そして、客席に感謝のお辞儀をしたあと、客席を背にしてメンバーに深いお辞儀をする。

  「あっちゃん」は、引退するのではない。卒業するのである。この熱狂はなんなのであろうか。似ている現象を強いて探しだすとするならば、宝塚音楽学校に入学した生徒たちが、卒業し、それぞれが俳優としての道を歩み出す瞬間であろうか。

 宝塚音楽学校に入学したからといって、劇団に入団できるわけではない。「女の園」は、男女交際を禁じられ、厳しいレッスンのなかで競争が繰り広げられている。ダンスからバレー、日舞そして声楽はもちろんのこと、ピアノのレッスンもある。

 「花」「月」「雪」「星」「宙」の組に配属されて、娘役と男役のトップに登りつめる者は、同期のなかでも数少ない。

 日本の興行史のなかで、かつてないイノベーションを起したAKB48のプロデューサーは、秋元康である。秋元は高校時代にラジオの脚本を売り込んだことから、芸能界に縁ができる。稲垣潤一の「ドラマティク・レイン」によって、作詞家と知られるようになる。ホラー小説「着信アリ」は、映画やテレビドラマにもなった。「グッバイ・ママ」では映画の監督もてがけている。

  「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」の特別番組のなかで、メンバーたちにとって秋元とはどんな存在なのか、という質問に対して、「先生」とひとりが答えてほぼ全員がうなずいた。AKB48はやはり、宝塚のような存在である。

  日々のレッスンに手を抜かず、厳しい競争のなかにメンバーをたたき込む。シングルの発売を前にして、ファンの投票によらずにジャンケンによって、センターつまりリーダーを選ぶ、という破天荒な競争もあった。

  秋元が作詞家として、作家として、そしてプロデューサーとして、いかに企画を立てるのかついて書いた『企画脳』(PHP文庫)は、ジャンケンが強いことに意味があることを説いている。

  「『企画脳』のために基礎体力をつけるためには、ジャンケンが強くなくてはいけない。

  なぜか。……みんな似たような能力があって、人間なんてあまり変わらないなかで、どうやって人より前に出て企画を売り込んでいくか……そのときに必要とされるのが、俺はジャンケンが強いという『根拠のない自信』なのである」

  卒業した「あっちゃん」の女優としての進路はどうか。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(2011年)の映画で初めて、主役のマネージャー川島みなみを演じた。

難病のために入院してマネージャーができなくなった、親友にかわってチームを甲子園まで導く前田の演技は、アイドル映画のそれではなく、鑑賞に耐える。

 テレビ東京の深夜枠のドラマ「マジすか学園」はいま、シリーズ3である。AKB48のメンバーが演技を競う。秋葉原の劇場が、実演を学ぶ場所であるのと同じように。今回のシリーズの設定は、不良少女たちが入れられている刑務所が舞台である。

 島崎遥香が主役のパルを演じている。前田はシリーズ1で主役を務めた。

  秋元は『秋元康の仕事学』(NHK出版)のなかで、AKB48は小劇団やロックアーチストと同じように、その成長の過程がファンにみえる、といっている。

 「ドキュメンタリーである」と。

  前田が卒業しても、AKB48のドキュメンタリーは続く。          (敬称略)

 

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

TBS「黒の女教師」 異色の主人公と現代的なテーマ

 「愚か者!」――都立国文館高校の生物教師である高倉夕子(榮倉奈々)の鋭い声が響きわたる。その直前の一瞬、ドラマの敵役である男優の顔に長い足が繰り出し、回し蹴りが決まって、敵は倒れる。

  学園の問題をともに解決する、古典教師の内田すみれ(市川実日子)と美術教師の藤井彩(小林聡美)が横に並んでそろう。

  「課外授業はこれで終了です」と、夕子は告げる。

  TBSの金曜ドラマ「黒の女教師」のエンディングである。

  2012年7月20日放映の第1話と27日の第2話を観た。夕子とすみれ、彩の3人の女教師は、学園内の被害者となった教師や生徒から、カネを取って、被害者に代わって加害者ともいうべき敵を社会的に葬る。リーダー役の夕子がその復讐劇のシナリオを書き、彩は学園内の情報を探る役、すみれはネットを利用して加害者を追い詰める。

  復讐の対価を求めるのは、時間外の課外授業であるという理由からである。深夜の学園の美術室で3人は、依頼人となる被害者を待つ。トランプのババ抜きをしながら。画面は驟雨に打たれる学園の正門を映し出し、そしてずぶ濡れになった依頼人が部屋のドアを開けて、カネをつきだす。

  第1話は、脱法ハーブが、テーマになっている。法律上は違法ではないが、使い方によっては心身ともに異常をきたす。新人の女教師である青柳遥(木村文乃)が担任をしている、クラスの女子生徒が、脱法ハーブを売る店のオーナーにだまされて、校内で買い手を増やす手先となる。このオーナーは大学生で、司法試験をすでに合格して法律事務所に入ることが決まっている。

  第2話のテーマは、教師と女生徒との恋愛である。有能な社会科の教師の及川(柏原収史)は、予備校の経営者の娘と婚約していずれ義父の跡をつごうという上昇志向の強い人間である。その一方で女生徒と肉体関係を結んでいる。

  復讐を依頼するのは、第1話では新人の女教師、第2話では教師に捨てられる女子生徒である。

  脱法ハーブを売る店の学生オーナーに対しては、次のようなシナリオを作る。彼が使っているたくさんの高校に売り込み役を果たしている女子高校生に対して、すみれが彼のパソコンに侵入して、店へ集合するようにメールを送る。最後にオーナーの妹が現れる。脱法ハーブの中毒症状を呈している。

   第2話の敵役である、社会科教師の及川には、他の高校の教師たちを招いた公開講座という舞台を設定して、被害者の女子高校生を登場させる。言論の自由と人権の問題に関する授業である。彼女は質問する。「ブログも人権侵害になることがあるのでしょうか」と。すみれによって、彼の匿名のブログは実名化され、かつ被害者の女子高校生との交際について赤裸々なブログを書き込んでいた。

  学園ドラマの主人公の設定としては異色であり、奇抜でかつ現実離れしている。しかしながら、そのテーマは現代的である。さらに、敵役の設定もまた、時代を象徴するような人物である。

  それは、大ヒットした日本テレビの「家政婦のミタ」のシナリオと同じようなものを感じる。かつてストーカーのように付きまとわれた義理の弟によって、夫と子どもを殺されたミタ。笑顔を浮かべることを自ら禁じて、雇い主の命令に対して「承知しました」とこたえる。視聴率はすべりだしこそ10%台だったが、回を重ねるごとに話題を呼んで、最終回は40%という驚異的な数字をたたきだした。

  「家政婦のミタ」のヒットの大きな要因は、現代を象徴するテーマ性にあったと考える。ミタが通う一家の主人の不倫とその結果、妻が自殺する。高校生の娘の上級生との肉体関係、4人の姉弟の兄弟愛、亡くなった妻の妹と主人公の淡い恋愛感情……

  ミタ(松嶋菜々子)の人生を縦糸にして、ひとつの家庭のドラマが横糸になって、現代の家族問題を織り成している。

  榮倉奈々の「黒の女教師」にも、そんな予感がする。なぜ、夕子はそして、すみれと彩は「課外授業」をするようになったのか。第2話のラストシーンで、夕子がある邸宅を訪れて、チャイムを鳴らすが、入ることを断られたのはなぜか。第1話で、転校したばかりの男子生徒が夕子のポケットに札束を突っ込んで、課外授業を依頼するが、それはなんなのか。その瞬間に男子生徒が夕子に口づけする理由とは。

  学園ドラマといえば、やはりTBSが1979(昭和54)年から2011(平成23)年にかけて、30年以上にわたって放映した「3年B組金八先生」がある。舞台の設定は、桜中学というどこにでもありそうな中学校であった。テーマの現代性が、長きにわたって視聴者をとらえたのであろう。筆者の少年時代のドラマでは、日本テレビの「青春とはなんだ」があった。原作は石原慎太郎、脚本に倉本聰の名前がみえる。いま思えば贅沢な布陣である。

  学園ドラマは世に連れ、であろう。「黒の女教師」の奇抜な設定もわるくはない。あるいは、現実の学園で起きている最近の事件の数々を思うとき、設定が現実離れしているほうが、テーマが視聴者に届きやすいのではないだろうか。 (敬称略)

 

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 

 

 

このエントリーをはてなブックマークに追加