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コラム

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 日本の名作映画、ドラマの数々に出演してきた、藤村志保の静かなナレーションでドラマは幕を開ける。野草の花々が咲く田園地帯が一瞬にして戦場に変わり、その花を摘んでいた少女は戦いのなかに巻き込まれて命を散らす。

  NHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」は、乱世の世情を描いたのも束の間、豊臣秀吉(竹中直人)が小田原の城下を見下ろすシーンとなる。秀吉が天下統一を成し遂げる「小田原征伐」(1590年)である。北条氏政の居城の小田原城を、一気に攻め落とせる自信をみせる秀吉のもとに、黒田官兵衛(岡田准)がにじり寄る。戦わずとも和睦は可能であると。

 官兵衛がひとりで小田原城の城門の前に立ち、弓と鉄砲の弾がかすめる。「死ぬことはござらぬ」と告げる。和睦に終わることを暗示するように、門は開かれる。

  大河ドラマの戦国物語は、幕末・維新の物語とならんで、幾度も取り上げられて十八番ともいえる。ちなみに、十八番とは、歌舞伎の市川海老蔵が昨年亡くなった、父団十郎から継いだ市川宗家が代々受け継ぐ18の作品をいう。

  「軍師 官兵衛」のなかで秀吉を演じる竹中直人は、「秀吉」(1996年)でも同じ役を演じている。この時の官兵衛役は伊武雅刀である。「花の生涯」(1963年)に始まった、大河ドラマは今回が53作目となる。

 「戦後の日本は芝居を失った」と語ったのは、コラムニストの山本夏彦だった。芝居小屋が立ち並んだ浅草の光景は遠い過去である。旅回りの一座が列島の各地で興行をしていたことを知る人も少ない。

 亡き山本翁に敬意を払いながら、江戸から続く芝居の命脈を保ってきたのが、大河ドラマではないかと思う。

  「軍師 官兵衛」はその第1回「生き残りの掟」のなかで、黒田家を興した祖父の重隆(竜雷太)と父職隆(柴田恭平)、母いわ(戸田菜穂)の物語をつづっていく。諸国を放浪していた重隆が家の基礎となる財を築いたのは、薬草の目薬であった。全国の守り札を売って歩く神社の信徒に眼をつけて、札とともにその薬も売らせたのである。その売上を資金として近隣に金貸しを始める。そのことが播磨国の豪族である小寺家とつながるきっかけとなって、家老までになる。いまは職隆に当主を譲って隠居の身である。

  「目薬売りであったことをおまえは恥ずかしのか」と、重隆は息子の職隆に問う。商人でも武士でも、いずれにしろ生き抜いていかなければならないと諭すのである。小寺家の重臣からその出自について陰口をたたかれていた。

  職隆が守備する小寺領のなかで、野武士が農民を襲う事件が頻発する。小寺家の重臣たちに、職隆がその陰の頭目ではないかという疑惑が広がる。

 その真実は、すでに櫛橋家と通じていた小寺家の家臣の仕業だった。しかも、その男は職隆の親友であった。

 この策略を見抜いたのは、少年時代の官兵衛である。野武士に襲われた幼なじみの少女を助けて逃げる途中の森のなかで、職隆の親友の配下の者と野武士が相談している現場をみたのである。

 官兵衛はこの情報を巧みに父に伝え、黒田家は面目をほどこす。

  織田信長が武田義元を討った「桶狭間の戦い」(1560年)に際して、もっとも大きな恩賞が、武田軍の位置を知らした部下に与えられたことを知る。「信長というやつ、おもしろい」と官兵衛はいう。

 軍師という情報を重視しながら戦いを進める官兵衛の将来が予言される。

 第1回は、官兵衛の元服のシーンで終わった。

  歌舞伎の十八番はすでに二百年以上にわたって、その時のいまを織り込みながら、観客の歓声を呼んできた。

 海老蔵が十八番のなかから、平家の武将である悪兵衛景清にからまる4作品をひとつにまとめあげたのは、初春花形歌舞伎の「寿三升景清」である。新橋演舞場で3日観た。

 源氏に敗れた景清が、中国の三国時代の関羽の魂と一体化して、源氏を討とうとする強い意思を現わす。しかしながら、ついにはその怨念を昇華して天空に舞う。

  そこには、栄華と衰亡に絡む人生の無常の物語が現れてくる。海老蔵が語っているように、この物語は現代に通じる。

 歌舞伎としては初めて、津軽三味線が使われた。最終幕では舞台に観客の桟敷が設けられるとともに、照明がうす暗くなってまさに江戸の芝居小屋の雰囲気をかもしだした。

  伝統といまの融合こそ、十八番が長らく観客の心をつかむ工夫である。

 「軍師 官兵衛」の滑り出しは、これまでの戦国物語とは異なって、激しい戦闘シーンや英雄譚ではない。

 大河ドラマの十八番である戦国物語に、企業で働く同僚、上司、そして家族のいまを重ね合わせようとしているようにみえる。

  第1回の視聴率は20%を下回った。十八番の新しい試みに観客がちょっと戸惑ったのではないか。海老蔵の舞台の津軽三味線が、賛否を呼んでいるように。

  もうしばらくは、大河ドラマの新趣向の先を観てみようではないか。

 なにより、宮藤官九郎脚本の映画「木更津キャッツアイ」で、爆発力ともいえる演技をみせた岡田准の官兵衛の物語は、始まったばかりである。 (敬称略)

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 最終回が迫るドラマを紹介する。ラストまでもう1回、充分に楽しめる。

 NHK土曜ドラマ「太陽の罠」(最終回・12月21日)と、「真夜中のパン屋さん」(同・12月24日)である。

  にっしーこと西島隆弘が演じるエンジニア・長谷川眞二が主人公の「太陽」は、太陽光発電に関する特許紛争が舞台回しとなっている。タッキーこと滝沢秀明がパン屋の主人・暮林陽介を演じる「真夜中」は、大沼紀子原作の「まよパン」の愛称で親しまれているシリーズがドラマ化された。

  パン屋を始めようとしていた矢先に事故で亡くなった、暮林の妻・美和子役の伊藤歩が、「太陽」の長谷川の妻・葵役で登場する。若手女優として演技派の伊藤歩は、それぞれ人生の謎を秘めた美しいふたりの妻を演じて、観客を引き込む。

  「太陽」の長谷川は、太陽光発電の開発に日夜取り組んでいる。公園で昼食を食べているとき、近くの会社のOLだという葵と知り合い、結婚する。

 長谷川が試作した音響装置は、植木の葉が太陽光電池の小さなパネルになっている。流れ出る音楽はジャズのスランダード・ナンバーである「時の過ぎゆくままに」である。

 この曲が静かにゆったりと流れていきながら、ドラマはサスペンスの緊張度を高めていく。

  長谷川が勤務するメイオウ電機がアメリカの企業から、特許侵害の警告を受ける。「パテント・トロール」と呼ばれる、有望な特許を手に入れて、メーカーに対して侵害の賠償を求める特許マフィアである。

  この特許マフィアとの戦いの正面に立つのが、訴訟対策室長の濱孝一(尾美としのり)である。濱役の尾美はいうまでもなく、連続テレビ小説「あまちゃん」の父親役。特許マフィアに狙われた理由を探っていくうちに、製造マニュアルが社内から漏えいした可能性があることを突きとめる。

  パテント・トロールから警告を受ける前から、特許侵害のおそれを濱は上司の村岡雄三(伊武雅刀)に訴えていた。村岡はその責任を回避しようとして、濱を陥れようとする。ふたりは激論の果てに、濱が村岡の撲殺を図り死体を山中に埋める。しかし、村岡は死なず、病院のベッドに意識不明のまま横たわる。

  新婚生活の甘い香りに包まれていた、エンジニアの長谷川は、太陽光発電の技術にまだ改良の余地のあることを直属の上司を飛び越えて、開発責任者に訴えたことが原因となって、知財部に左遷される。未練が残る開発プロジェクトのサーバーに、他人のパスワードでアクセスする。

 

 殺人未遂事件を起こした濱は、警察の捜査の目をくらますために、長谷川に特許の情報漏えいの疑惑によって、殺人未遂事件の犯人に仕立てようとする。

 刑事の三浦智明(吉田栄作)の捜査によって、長谷川の濡れ衣は晴れる。太陽光電池の製造マニュアルが、米国のサーバーに送信されたのは、長谷川のパソコンからであることを、三浦は告げる。

  知財部に左遷される前に、自宅に仕事を持ち込んでいた長谷川のパソコンを使えるのは、妻の葵である。葵とは何者なのか。

 葵が務めていたという会社の社員名簿にその名前はなかった。結婚式に参列した兄は戸籍上存在しない。

 メイオウ電機に太陽光発電のキーとなる技術を実質的に奪われた、中小企業の経営者の娘が、葵の正体であった。そして、兄というのは、その工場で働いていた幼なじみで、いまではコンサルタントの澤田謙(塚本高史)。

ふたりはパテント・トロールと組んで、メイオウ電機に復讐を誓ったのである。

  「まよパン」は、海外勤務をしていた暮林が単身赴任している間に、妻の美和子が開業準備をしていた。深夜11時から明け方の5時まで営業している。暮林が海外でどんな仕事をしていたのか、そもそも美和子とのなれ初めとは。暮林がそれまでの仕事をなげうって、妻のパン屋を引き継いだ理由は。最終回を前にしても、原作のさまざまな事実が明らかになっていない。

  パン職人の柳弘基(桐山照史)と、美和子の腹違いの妹を名乗ってパン屋の2階に住むようになった、女子高生の篠崎希実(土屋太鳳)がけんかするのを、静かに微笑んでみつめる暮林。パン屋に集まってくる、脇役たちの演技も含めて、原作の人気シリーズが描く群像劇の映像化に成功している。

  テレビドラマの脚本家の斑目裕也(六角精児)は、部屋に望遠鏡を備えてのぞき見がくせの男である。ニューハーフのソフィア(ムロツヨシ)、シングルマザーの水野織絵(前田亜季)とその息子のこだま(藤野大輝)らが、小さな事件を通じて絡み合い、その解決に向けて協力し合う。

  「家族」の物語が今年のドラマの大きな流れではなかったか。血がつながっているかどうかではなく、触れ合い、そしてつながり、暮らすドラマの数々である。「あまちゃん」はいうまでもない。「半沢直樹」もまた、サラリーマンのさまざまな家族模様が描いた。

  このコラムのシリーズの本年ラストに、「家族」を描くふたつのドラマをお薦めします。それでは、また来年おめにかかります。                (敬称略)

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 テレビ朝日の「相棒」シリーズは、シーズン12となって、2000年のプレシーズンと合わせると200本以上のドラマを積み重ねてきた。このコラムのシリーズで「右京はキャラハンかコロンボか」と題して、名作推理ドラマに対するオマージュ(敬意)という視点からその魅力の源泉を探ってみた。過去のシリーズの再放送にはまってしまったからだ。

  「相棒」シリーズの主要な作品のほとんどを観たのではないか、と胸を張れるようになったのはつい最近のことである。

  シーズン12の第8話(12月4日放映予定)「最後の淑女」のゲストスターは、岩下志麻である。「相棒」の出演は初めてではないだろうか。このドラマシリーズに関しては多数の解説本が過去に出ているばかりではなく、ノベライズつまり小説化もなされている。「相棒学」ともいえる愛好家に対して、謙虚に敬意を払わなければならない。

  杉下右京(水谷豊)は過去にどれほど、日本を代表する女優たちが演じる犯人と対決してきたことだろう。フランス文学者の教授だった岸恵子が、別荘の密室事件を企てる。杉下は学生時代に彼女の授業を受講している。フランス語で詩の一節を暗唱し合いながら、ふたりの間に静かな知的なゲームが展開する。

 長山藍子が演じたのは、過激派の爆弾づくりを手伝った、恋人が誤爆で死んだ復讐のために、爆弾づくりを依頼した男性を殺そうとする翻訳家である。

  シリーズ12の初回特別編「ビリーバー」で、警視庁捜査一課の刑事トリオのなかから、三浦信輔刑事(大谷亮介)が警視庁を辞職した。事件にからんで足を刺されて不自由となり、捜査活動が難しくなったからだ。「警備会社にでも再就職する」と三浦は、病院に見舞いにきた右京に寂しそうに告げるのだった。

 同僚の伊丹憲一(川原和久)と芹沢慶二(山中崇史)のトリオの中では、ベテランのいぶし銀のような存在である。

 別の事件では、外資系企業の聞き込みに3人で行って、英語ができることがわかり、伊丹と芹沢を驚かせるシーンもあった。

 「よっ、暇か?」と声をかけて、右京の特命係の部屋に入ってきては、勝手にコーヒーを注ぐ、組織犯罪対策第5課長の角田六郎(山西惇)の人生なら、初期のシリーズで知っている。最近のシリーズでもときどき妻の悪口が出るが、恐妻家である。

 鑑識係として右京を助ける、米沢守(六角精児)は、妻が失踪したままだ。映画化された「絶対絶命! 42.195km 東京ビッグシティーマラソン」(2008年)では、妻にそっくりな女性の殺人事件が発生する。

  登場人物がたちの過去が、さりげなく最新シリーズに織り込まれていることは、「相棒」ファンにとっては、この作品の奥深さを味合う瞬間でもある。

  前回の第7話「目撃証言」(11月27日放映)は、殺人事件のきっかけが過去に起こった老女の自転車による死亡事故の際に、偽証があったことがわかる。それによって、無実の罪に服した男が復讐を遂げて、その証言者を殺す。ドラマは、二重ラセンのように、もうひとつのテーマが隠されていて、ラストシーンで明らかになる。その偽証を誘導したのは、捜査に当たっていた刑事だったのである。

 悲劇に向かうドラマは、毎回のようにその独創性をましているようにみえる。

  右京がいきつけの小料理屋「花の里」のシーン。どうして偽証にいたったのか、疑問を語る右京に対して、女将の月本幸子(鈴木杏樹)は「わかるような気がしますね」とつぶやく。

 月本は殺人未遂事件を起こして服役、そして、別の女囚の脱獄に巻き込まれる事件にも遭遇している。月本をめぐるいくつかの作品は、女優の鈴木杏樹の代表作のひとつといってよいだろう。出所後、右京の離婚した妻の宮部たまき(益子育江)が経営していた店を継いだ。旅にでた宮部たまきが、店を閉めた後、再開まで右京が仕事を終えていき場所を失くして、推理のさえを失くすエピソードもあった。

  5分間でわかる「相棒学」――などと意気込んではみたものの、「相棒」ワールドの全体像はあまりにも大きい。「だめですねぇ、君は……」と右京が、歴代の相棒をたしなめる声が、わたしにも聞こえるようだ。

 「最後にもうひとつ」と、右京の決め台詞のマネを振ってから、水谷豊のあくなき挑戦について述べてみたい。

  刑事役としての水谷の原点は、名匠市川崑監督の「幸福」(1981年)ではないだろうか。小学生の娘と息子を置いたまま、妻は実家に帰ってしまい、水谷演じる刑事は、捜査と子育てに取り組む。

 ミステリーなら、浅見光彦シリーズ(1998~1990年、NTV=現在の日本テレビ)だろう。製作は近代映画協会。映画監督の新藤兼人や吉村公三郎らが設立した独立系プロダクションである。水谷演じるフリーライターの母親役は、新藤を支えた名女優の乙羽信子である。

  映画とテレビを行き来しながら、俳優として成長を続ける水谷豊の人生もまた、「相棒学」の大きなテーマである。

  次回のゲストスターである岩下志麻は、水谷が映画デビューを果たした作品「その人は女教師」(1970年)の主役である。                     (敬称略)

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  東日本大震災による巨大津波は、浜辺の防災林をなぎ倒して、住宅を次々に飲み込むようにして仙台平野の奥深く侵入した。宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)港の名称は、NHKのヘリコプターが上空から実況中継した映像によって、巨大地震の凄まじさを人々の記憶に刻んだ。

 地元の水産加工会社などが協同組合方式で運営していた、日曜早朝の名物の朝市も潰滅的な打撃を受けた。組合員51人のうち4人が亡くなり、家族を失った人も10人以上にのぼった。カナダ政府を中心とする復興プロジェクトによって、カナダ材で建てた「メイプル館」が浜辺に近い場所に5月に竣工して、朝市の新しい拠点がまずでき、12月には新たに3棟が加わって完成する。震災前の出店数に近い40店以上が並ぶ予定である。

 協同組合の理事長の櫻井広行さんは「復興のためにはやる気のある人がまず立ち上がらなければならない」と語る。地元の金融機関が組合に対して8000万円の融資を決めてくれたのが励みだという。

 「震災地で新たに事業を起こす人々が、水や空気のように、金融機能を使えるようにしたい」。特定非営利活動法人のプラネット・ファイナンス・ジャパン(東京)の専務理事を務める、田中和夫さんは活動の理念を語る。プラネット・ファイナンスはフランスの思想家である、ジャック・アタリさんが創設した世界的なマイクロファイナンスである。

 大震災の直前から運営にかかわるようになった田中さんは、野村証券の金融市場畑の出身である。マイクロファイナンスは、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行によって知られる。米国企業などからの寄付金によって作った震災地向けの基金について、田中さんは新しい仕組みを考えついた。

 地元の信用金庫と協力して、融資は信金に任せて、基金はその融資対象の支援に回る。起業に必要な自己資金について、最大150万円を基金が負担する。ひとつの企業当たり従業員2人分の給与を1年間、月額10万円支給する。対象の企業は、雑貨店やパン屋、電気工事店、整骨院など、多岐にわたっている。

 日本政策投資銀行(東京)は、震災地の自治体と地方銀行と協力して、政府の復興計画や支援策と震災地の起業を結びつけようとしている。福島県との間で今春締結した連携協定に基づいて、医療機器分野への融資が検討されている。この分野で同県は生産金額がすでに全国5位の地位にある。医療機器の機能を評価する研究機関の立地も決まっている。「震災地にある成長産業の芽を育てる、金融の役割を果たしたい」と、担当部長の深井勝美さんは語る。

 閖上浜の堤防沿いに桜の苗木を植える計画が進んでいる。東南アジアの青年たちは、日本に渡って成功することを「サクラ・ドリーム」という。震災地の起業家たちの夢もそう呼ぶにふさわしい。そのためには、苗木に注ぐ金融の水が欠かせない。

SankeiBiz     フロント・コラム  田部康喜

http://www.sankeibiz.jp/search/?q=%E7%94%B0%E9%83%A8%E5%BA%B7%E5%96%9C&web.x=-1017&web.y=-194&web=+%E6%A4%9C%E7%B4%A2+

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日本最大の売り場面積を誇る複合書店の所在地は、東京でも大阪でもない。それは東北の中核都市である仙台にある。

「蔦屋書店 仙台泉店」である。今春オープンした店舗は、もともとショッピングモールとなる予定だったビルに入居した。売り場面積は1万平方㍍近くもある。

 カルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する蔦屋書店チェーンは、2011年春に東京・渋谷に近い代官山店をオープンして、5000平方㍍クラスの大規模店を出店する戦略を進めている。

 この戦略のシンボルとなっている代官山に続いて、前橋みなみモール店、フィオレ菖蒲店(埼玉県久喜市)、ひたちなか店、新潟万代店と出店を加速して、これらの店の規模を大きく上回る仙台泉店に至った。1983年の1号店から30周年である。

 CCC傘下で書籍と雑誌を販売している、蔦屋書店とTUTAYAの年間売上高はすでに、2012年に1097億円に達し、紀伊國屋抜いて国内最大の書籍・雑誌小売業である。

 世界最大のネット書店であるアマゾンが、日本の市場を席巻するなかで、リアルの書籍流通の領域で、CCCは果敢な戦略をとってきた。

 日本最大の書店である仙台泉店と、旗艦店である代官山を重ねあわせるとき、電子書籍時代の「紙」と「電子」の読書のありかたの未来図が見えてくる。

 出版界はすでに、「紙か電子か」の論争に終止符を打って、「紙も電子も」の路線に突き進んでいる。

 ここでは、読書人が集う書店の地点から、電子書籍時代の書籍流通を考えてみたい。ありきたりの言葉であるが、生産者の視点ではなく消費者の視点である。読書は人生の喜びであり、それは人々の生き方と暮らし方に大きくかかわっている。

■トヨタの進出で地域が変貌

 仙台泉店がある場所は、仙台市の中心街ではない。北方に広がるベッドタウンの一角にある。高度経済成長時代に三菱地所が計画した高級住宅街のパークタウンが近い。地元の開発業者も加わった、かつての新興住宅街に囲まれるように店舗はある。

 仙台市の市境を越えて北に向かうと、トヨタ自動車が名古屋と九州に次いで、国内3番目の生産基地とする工業地帯が広がっている。

 経済成長の鈍化によって、開発がいったんは停滞しかつ、都市のスプロール化によって高齢化が進んでいたこの地域が、トヨタの進出によって変貌を遂げている。大型のショッピングモールが次々に進出し、シネコンもある。かつては、仙台市にいずれ合併されて飲み込まれると思われていた隣接の町が、人口の増加によって市制施行もつぶやかれるようになった。

 仙台市の中心街から独立した都市圏のなかに、仙台泉店は「紙」の需要を掘り起こしている。書籍は、人文書や専門書、趣味の本など、80万冊に及ぶ。児童書と絵本は3万冊、玩具もある。CDは1万枚、DVDは単館で公開されたマイナーな作品までとりそろえている。カフェや本を読む座席も300席ある。

 営業時間は平日が朝9時から夜の23時まで。土日と祝日は朝8時から開店する。

 店舗が市場としてにらむ、周辺の車中心の交通網を利用する暮らしぶりに合わせて、駐車場は600台以上を用意している。

 代官山店もまた、立地している地域の人々の暮らし方に合わせた運営がなされている。仙台泉店が車で立ち寄るしゃれたロードサイド店であるとすると、代官山店は歩いて行く店である。渋谷を起点とする東急東横線の最寄り駅からばかりではなく、周囲の山の手の住宅街から起伏に富んだ風景をみながら店までたどり着くのは、ちょっとした散歩になる。

 代官山地区は、日本を代表する建築家である槙文彦さんらが中心になって、地元の住民と協議を重ねながら、樹木や路地を生かして、ゆっくりとした時間軸のなかで再開発が進んでいる。地域の価値について、過去の歴史的な文脈を忘れないという理念がある。大樹1本を切り倒すことは、地域の価値を引き下げるのではないか、という疑問をいつも持ちながら住民の議論がなされている。

 代官山店は、敷地面積1万1000平方㍍の土地に、2階建ての3棟が回廊でつながっている。それぞれが書籍、雑誌、美術書、DVD、CDなど、豊富な点数ばかりではなく、特徴をもった店舗である。

「紙」の売り上げの減少に苦闘する出版界は、その要因のひとつとして、書店の閉店が急速に進んでいることをあげる。もちろん、出版社は書店と協力して、「紙」の売り上げを伸ばす戦略をとっている。ブックフェアやキャンペーンである。

■暮らしの変化に書店が対応

 蔦屋書店のふたつの大型店から見えてくるのは、列島の都市と人々の暮らし方の変化の潮流をいかに読むかが重要ではないか、と考える。

 書店調査会社のアルメディアによる、2013年上半期の書店の状況は、閉店数が380店に及んでいる。新規店は91店である。

 街角の書店が消えていくのは読書人にとって残念なことである。しかしながら、調査統計のなかから、うっすらと読み取れるのは、都市と人々の暮らしに懸命に書店が対応していこうという姿である。

 2000年代に入って、新規店舗数が11年まで100店舗を超えている。02年が最多で246店。書店の増床面積の合計は、07年の4万1000坪をピークとしながらも、その後も2万から3万坪で推移している。

 書店は人々が「紙」を忘れ、捨てようとはしていないことを知っている。

 Daily Diamondは、週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

http://dw.diamond.ne.jp/

 

 

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