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政治経済情報誌・ELNEOS 12月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が首脳会談で、北方領土について、一九五六年の日ソ共同宣言を基礎にして日ロ平和条約交渉を加速させることに同意した。共同宣言によれば、平和条約の締結後にロシアが歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す、としている。

 日ソ関係の転換は、世界秩序に大きな変化をもたらすことになる。日本企業にもその変動の波は打ち寄せる。

 このシリーズでは、京都大学名誉教授の中西輝政氏の「アメリカ帝国 衰亡論」(幻冬社)を手掛かりにして、情報分析の重層性について考えてきた。すなわち、日々のニュースは上層であり、中層は覇権国のパワーの関係など、そして下層が世界史的な潮流である。

 この情報分析の重層性は、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のエドワード・ルトワック氏の最新刊「日本4・0 国家戦略の新しいリアル」(文藝春秋社)の視点にも現れている。同氏は、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーである。

 「現在、北朝鮮はアメリカとの非核化の交渉に応じているように見える。しかし、それがこのまま続くという確証はどこにもない。トランプ大統領でさえ『半年経ってみないと、(首脳会談が)成功かどうかわからない』と述べているほどだが、これが建前ではなく、事実であろう」と、日本が直面している朝鮮半島の行方について分析する。

 「核兵器の本質が抑止である以上、あえて威嚇に使うのは合理的でとはいえない。抑止のルールの外側に出ようとする国家に対して必要なのは、『抑止』ではなく防衛としての『先制攻撃』なのである。この『先制攻撃』を具体的にいえば、北朝鮮のすべての核関連施設とすべてのミサイルを排除するということ、すなわち軍事的非核化である。実は、アメリカはこの軍事オプションをまだ手放してはいない」と述べる。

 アメリカにとって最も警戒すべき相手は、台頭する大国、中国である、というトランプ政権の見方を、ルトワック氏は共有して次のように述べる。

 「中国問題に集中するために、ロシアと何かしら合意を結ぶべきだ、という考え方である。これは冷戦下で、ニクソン大統領が毛沢東と手を結んで

台頭するソ連に対抗したやり方と似ている」と。

 トランプ大統領の考え方について、およそ以下のようなものだろう、とルトワック氏は分析する。

 「もしロシアがシベリアを失うようなことがあれば、それはアメリカではなく、中国人にとられるからだ。米露は、中国の膨張を食い止めるという点で共通の利益を持っているはずだ。だから協力をしようじゃないか」

 このように、朝鮮半島の危機と米中両国の覇権争いという歴史的な転換点において、日本は新しいシステム「4・0」を構築しなければならない、というのである。ルトワック氏によると、「1・0」は江戸幕府時代であり、「2・0」は明治維新、「3・0」は終戦後の体制である。これらの過去のシステムに対して、「日本人は戦略下手どころか、極めて高度な戦略文化を持っていると考えている」と評価する。

 京大名誉教授の中西氏が「「世界史の教訓」(育鵬社)のなかで、維新前夜において、世界的規模で繰り広げられていた英露の覇権争いを幕府は巧みな外交によって乗り切った、と評価しているのと響き合う。       (この項了)

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フジサンケイビジネスアイ 10月19日付 寄稿

 さいたま市大宮駅から東京駅を経由して、川崎駅から横浜駅を結ぶJR京浜東北線は、日本有数の京浜工業地帯を貫くように走る。平成27年度版大都市データランキングによれば、川崎市は工業分野において、授業員1人当たりの製造品出荷額が1位の9400万円、学術・開発研究機関の従業員数の割合が1位の1.64%で他都市を圧倒している。京浜工業地帯の中核都市は、米中西部と大西洋岸中部地域の「ラストベルト(錆びた地帯)」ではない。

 川崎駅から再開発地区の落葉が近い並木道をしばらく歩くと、川崎市産業振興財団はある。設立30周年を迎えた財団は、「川崎方式」と呼ばれる中小企業の支援の拠点である。

 なかでも、「かわさき起業家オーディション」は平成13年から始まった、ベンチャーや新規事業を発掘する催し。10月5日に開かれた選考会で115回を数える。年に6回もある。応募者から審査委員会が事前に選考し数社が、最終選考会のプレゼンテーションに臨む。主要な賞に賞金はない。金融機関などから、融資を得られたり、ベンチャー支援の団体からエンゼル資金を得られたりする。

 最新の受賞者をみると、地場の中堅印刷会社が開発したCO₂ゼロの印刷方法を地球温暖化対策に拡大したいという新規事業、地域コインをLINEのアプリケーションと連動して導入して普及する事業などが最終選考会を勝ち抜いた。

 前回114回の受賞者である小松和徳さん(55)はフリーのテレビディレクターとして個人事務所を経営する異色の応募者だった。ペットの樹木葬のための植木鉢というアイデアも、本業とは畑違いだ。愛犬を亡くしたのは2年ほど前、ペットロス症候群のなかで、亡骸をどのように弔うのか悩んだという。ペット専門の火葬業者にいったん骨にしてもらい、骨壺を受け取った。埋葬方法は、庭に埋めるのがいいのだが、小松さんはマンション暮らし。ペット専用の墓地に入れれば費用がかなりかかる、骨壺のまま自宅に置いておくと骨にカビが生える可能性があることもわかった。

 植木鉢に骨を入れて、樹木葬にしたらどうか、と閃いた。知り合いの陶芸家にペットの名前入りの陶器の鉢を焼いてもらい、樹木はライムなどの柑橘系が適していることなどを研究して、ビジネスの骨格は固まった。受賞によって、地元の地域金融機関から融資も得られ、クラウドファンディングも始めた。並行して、実用新案の登録や「ペットの樹木葬」などの商標登録も済ませている。年明けから本格的にネット販売する予定である。

 「川崎方式」の中小企業支援は、専門のコーディネーターが事業の指導をするとともに、大企業や中小企業同士を結びつける活動を恒常的に行っている。コーディネーターが見つけ出した企業を起業家オーディションに送り出すこともある。隣接する東京都大田区や横浜市とのきずなも強い。行政の境を超えて、中小企業を紹介し合っている。京浜工業地帯は錆びつかないで、いまだに輝いている。   

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政治経済情報誌・ELNEOS 10月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 シェアハウスをめぐる不正融資によって名門銀行の裏側が明らかになった、スルガ銀行が外部の弁護士に委嘱した第三者委員会の報告書は、日人々が本の企業経営者と危機管理に携わっている人々が必須の文献である。

 この委員会はその調査において銀行のあらゆる指揮と命令から完全に遮断された「独立委員会」であることに大きな特徴がある。全三〇〇頁を超える報告書は、ふさわしい言葉とはいえないとは思うが、「企業の失敗」の研究文献として今後も繰り返し読み返される傑作である。スルガ銀行のホームページから入手できる。

 不正融資の手口として、シェアハウスを開発する企業と銀行の中間に八〇を超える販売会社を介在させて、融資枠が物件の八割を超えるために、顧客の預金通帳を偽造したり、シェアハウスの入居率を融資の返済に必要な水準に達していない場合は偽装したりするなど、その詳細は報道されている。

 また、取締役ではない執行役員がスルガ銀行の独自の肩書である「Cо―CОО」という名称で、営業全般を牛耳って、審査部門を指示し、人事や従業員の査定まで広範な権限を握っていた事実も明らかになっている。

 この報告書の意義は、スルガ銀行のみならず、日本型組織の悪弊が読み取れるところにある。報告書は次のように述べる。

 「本件の大きな特徴は、これだけの多数の不正行為等が長期間、多支店に渡って継続しており、その間、人事異動もあってこれらの情報も拡散したと思われるのに、誰一人、上司に対する通常の報告もせず、内部通報窓口への通報もしなかったということである」

 シェアハウスの運営会社に対する融資は首都圏のひとつの支店から始まった。運営会社を実質的に経営している人物が、不動産融資をめぐって犯罪行為に手を染めたことや、シェアハウスの採算性から融資の回収が困難になる、という外部からの通報があった。

 シェアハウスの運営会に対する融資をスルガ銀行は禁じたが、支店は販売会社経由の融資を考えつく。

 シェアハウス向けの融資はこうして、現場の暴走という形で拡大する。そして、営業のトップであるCо―CО〇が追認し、拡大する。

 「経営トップ層は、持ち株比率や創業者の権力を背景に全体としてのスルガ銀行は完全に支配していたが、他方、現場の営業部門は強力な営業推進力を有する者、しかも従業員クラスに任せ、その者には厳しく営業の数字を上げることを要求し、人事は数字次第と次のなった」と、報告書は指摘する。

 日本軍の失敗の本質を研究した名著の共著者である戸部良一氏は、「自壊の病理――日本陸軍の組織分析」(日本経済新聞出版刊)のなかで、次のように述べている。

 「軍の政治介入は軍部独裁をもたらしたわけではない。軍が政治力を独占したわけでもない。……また、陸軍の政治介入は、陸軍大臣あるいは参謀創業が強力な指導力を発揮し、組織全体を率いて、政治を壟断するという構図になっていたものでもない。むしろ政治介入の推進力は、省部の中堅幕僚層であった。……陸軍の政治介入で際立っているは、逆説的だが、陸軍という組織におけるリーダーシップの欠落である」。日本の企業や団体でみられる現場の暴走とその追認は宿痾である。

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政治経済情報誌・ELNEOS 9月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 企業の広報部門は経営層に対する最新の経済、産業情報の伝達者である。広報部門の朝は、各種の新聞、雑誌、インターネットメディアの「クリッピング」から始まる。

 さて、次の記事をクリッピングすべき業種の企業はどこだろうか。答えはすべの業種の企業といってよいだろう。

 【AFP=時事】小さなロボットのウエーターがくるくる移動しながらテーブルまで料理を運ぶ。ガラスのふたを開けると上海風ザリガニ料理から湯気が立ち上り、ロボットが低い機械的な声で「ごゆっくりお楽しみください」と告げる。この未来的なレストランは、中国の電子商取引大手アリババが手掛ける「Rоbоt・He」だ。中国では商取引におけるロボットと人工知能(AI)の活用が広がっており、同社もサービスと小売りの近代化を推進している。

 クリッピングが経営を動かした例をあげよう。森喜朗内閣のIT戦略本部がNTTが独占している光通信網を他の企業に開放する方針を示したあまり目立たない記事だった。

 ソフトバンクグループ代表の孫正義氏は、政府の通信自由化の意図を読み取り、政策当局である総務省との折衝に入った。同グループが通信会社として地歩を築く第一歩である。

 広報部門に求められるのは、経済、産業情報の選択眼である。時代の潮流をつかむ日々の情報収集である。

 時代のキーワードはいま、シンギュラリティ―(技術的特異点)である。

 「AIが神になる日 シンギュラリティ―が人類を救う」(SBクリエイティブ、二〇一七年)の筆者である松本徹三氏は、「特異点に至った技術」と宇訳したほうがいいとする。AI技術こそ、その頂点に立つものであり、流行している技術は「バズワード(デジタル用語で、もっともらしい説明がつけられて人の気を引くもの)」と断じる。

 「たとえば、IоTですが……これに必要な技術もたいしたものではありません。要するに、『いかに小さく、安価で、電力を食わない無線通信用の・チップ』を組み合わせるかというだけのことだからです」

 これに対してAIは「人間の社会を、場合によってはその存在の意義そのものさえも、本質的に変えてしまうインパクトを持つ」とする。

 そのうえで、松本氏はAIがシンギュラリティ―に到達する過程を描いている。第一の時代は今後一〇年から二〇年の可段階で、「AIの可能性を念頭において仕事を組み立てていくと、特に新しいサービス産業の分野では可能背が次々に広がっていくでしょう」。とくに、「翻訳システム」とプロが作り込んだ電子教材などの「教育システム」が有望である、と説く。

 第二の時代は、先の時代と重なり合いながら進展する。「医師や弁護士、教師やビジネスマン、官僚や政治家が、AIとペアで仕事をするのが常識となり……その一方で、いくつかの職種では雇用は大幅に針、なかには完全に消滅してしまう職種も出てくるでしょう」。AIがシンギュラリティ―に到達すると、政治、社会、経済の人間の主体的な判断にAIが関与する。

 AIの時代を恐れることはない、と松本氏は述べる。「この世界になにが起ころうとも、あなたはいつでもこの世界の中心であり、自由に考え、自由に感じることができる」と。

 

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WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本  投稿

 NHKドラマ10「透明なゆりかご」(金曜日夜10時)は、海沿いの町の小さな由比産婦人科を舞台にして、看護学校に通いながらバイトの看護助手を続ける、青田アオイ(清原果耶)の成長の物語である。病院モノのドラマの多くが、救急医療に携わる医師や難病を解決する名外科医を主人公にしているとは異なって、母子家庭にあって懸命に働こうとしているアオイという、少女の物語は強く心に残る。病院モノの既成概念の打ち破る傑作である。

 ヒロイン・アオイ役の清原果耶は、連続テレビ小説「あさが来た」(2015年度下期)のレギュラーとして女優デビューした。放送90年を記念した壮大な大河ファンタジードラマ「精霊の守り人」(2016・2017年)では、主人公・バルサの綾瀬はるかの少女時代を演じた。可憐な表情の奥に強い芯がある若手女優である。

 ドラマは、毎回ゲスト女優に妊産婦を演じさせて、オムニバス形式で進行する。第2回「母性ってなに」には、カンヌ国際映画祭で「万引き家族」(2018年)によって最高賞のパルム・ドールを獲得した、是枝裕和監督組の蒔田彩珠(まきた・あじゅ)が望まぬ妊娠と出産をした高校生・中本千絵役で登場した。「三度目の殺人」(2017年)では、弁護士で父の福山雅治の娘役、「万引き」では松岡菜優の妹役である。憂愁を帯びた美少女役が似合う。

 是枝組のみならず、湯浅弘章監督による最新の「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」や、瀬々敬久監督の「友罪」など、日本を代表する監督たちがいま最も起用している若手女優のひとりである。

 医院の入り口の脇から子猫の鳴き声を聞きつけた、アオイ(清原)はそこに置かれた紙袋のなかにタオルで包まれた赤ん坊を見つける。医師の由比朋寛(瀬戸康史)が診断すると、30週ほどで生まれた体重2キロ余りの未熟児だった。アオイが赤ん坊の担当になる。

 「名前をつけたほうがいい」というアオイの提案に、師長の榊実江(原田美枝子)は彼女に「もう少し発見が遅れたら死んでいた。あなたは命の恩人だから名前をつけなさい」という。アオイは、「しずか」と名付けて、「しずちゃん」と呼びかけながら世話を続ける。

 哺乳をしようと、しずかをみつめた時、アオイは言い知れぬ気持に襲われる。看護師の望月紗也子(水川あさみ)が「どうしたの?」と呼びかける。

 「なんか胸が苦しい。すいません」と、アオイは答える。

 しずかと名付けた赤ん坊の体重が数十グラムでも減ると、自分の世話が悪かったのかと動揺もする。

 「しずちゃん、ママがんばるからね」と、アオイは無意識に話しかける。

 そんなアオイに、看護師の望月はこういう。

 「やめなさい。自分のこと、ママっていってたよ。あまり入れ込まない方がいい」

 2週間が経って、赤ん坊を生んだ高校生の中本千絵(蒔田彩珠)とその父母が産院を訪れる。千絵の体調が悪いというので、両親が病院に連れて行ったところ、「出産したのではないか」と診断され、千絵を問い詰めたところ産院のそばにこども捨てたこと打ち明けたからだ。出産はひとりで、自宅のお風呂場でなされた。

 医師の由比(瀬戸)に謝る両親をさえぎるようにして、千絵が叫ぶ。

 「近所のごみに出そうかと思ったけど、終わってたし、わざわざ自転車で捨てにきたら無駄になった。そんなのみせないでよ」

 由比は、千絵に諭すように優しく尋ねる。

 「どうしてうちに捨てたの?前にも来たことがあった?」

 千絵はそれに答えずに、じっと見つめているアオイ(清原)に噛みつくように大声をあげる。

 「なにみてんの。あんなには関係ないでしょ」

 「わたしはこの子のお世話を」とアオイ。

 「仕事なのに善人ぶらないでよ」

 清原果耶と蒔田彩珠という、次の時代を担うであろう若手女優のぶつかり合いは胸に迫る。これからのちもふたりは、別の作品で演技を競うのだろう。

 千絵と両親が産院を去ってから、看護師の望月(水川)はアオイに語りかける。

 「だから、いったでしょ。あまり入れ込んじゃあいけないって」

 アオイは、反発する。

 「勝手に生んで、ゴミみたいに捨てて、なんでそんな人にわたさなければいけないんです?」

 「生んだのはあの子で、あなたは看護助手。あの子は30週育ててきた。あなたは2週間でしょ。3月ぐらいか、彼女が妊娠に気づいたのは。どんな気持ちでサックらを見たんだろ。赤ちゃんだけをみちゃだめよ」と、望月は諭すのだった。

 アオイは気持ちが収まらず、千絵に一言いってやりたくて、海沿いの急な坂道を自転で登る。あえぎながら、途中で息切れをしながら、アオイはこの坂道を自宅で出産して、自転車の前かごに、赤ん坊を入れた紙袋を入れて、産院まできた千絵の姿がみえてくる。出産後の苦しみのなかで、懸命に自転車をこぐ。そして、桜の花散るころ、産院の前でたたずんでおなかを抑えながら、なかにはいることができなかった千絵である。

 アオイは、千絵の自宅の前に着くが、そのまま自転車の方向を変えて、泣きながら坂道を下っていった。

 

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