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フジサンケイビジネスアイ 2月1日付 「高論卓説」 寄稿

東京五輪は文化催事もカギ

ロンドンに学ぶ都市の魅了向上

 ロンドンのサウス・ケンジントン地区にあるロイヤル・アルバート・ホールは、高さ約40mの天井を望む楕円形の劇場が約7000人の観客で埋め尽くされていた。クリスマスシーズンの定番である「くるみ割り人形」のバレーを昨年末に観た。演奏はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、バーミンガム・ロイヤル・バレー団の公演である。会場は、BBCが夏に「BBCプロムナードコンサート」(The Proms)を開催する。サーカスなどの公演もあって、ここへ行けば何かに出会える。

 ウエスト・エンド地区は、ニューヨークのブロードウェイと並ぶ演劇の街。「レ・ミゼラブル」や「オペラ座の怪人」の看板が掲げられた劇場に人の波が飲まれていく。

 ロンドンはすべての季節を通じて、訪れる人々に文化を提供しているのだろう。森記念財団が毎年発表している「世界の都市総合ランキング」18年版によると、ロンドンは2012年にニューヨークを抜いて首位に立って以来、その地位を保っている。東京は16年にパリを抜いて、ニューヨークに次ぐ3位である。

 「経済」と「交通・アクセス」など、ランキングを算定する根拠となる項目のなかで、ロンドンは「文化・交流」において他都市を圧倒して首位である。東京は、ニューヨークとパリに次いで4位と差がある。

 世界都市ランキングのトップにロンドンが立った12年は、五輪開催年である。オリンピック憲章の根本原則として「オリンピアズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」とある。ロンドン五輪における「文化オリンピアード」の成果に注目して、来年に迫った東京五輪も文化の成果を上げるべきだ、と主張するのはニッセイ基礎研究所の吉本光宏さんである。

 ロンドン「文化オリンピアード」は北京大会終了後から、オリンピック・パラリンピックまで4年間行われた。参加者数は4340万人にのぼった。吉本さんが注目しているのは、英国全土の小さな市町村も含めて、劇場や美術館などの文化施設ばかりではなく、公園やストリート、歴史的な建造物、景勝地など1000カ所以上で開催されたことである。

 東京五輪に向けた「文化プログラム」として、文化庁は20年にかけての4年間で20万件の文化イベントと参加人数5000万人の目標を掲げる。内閣官房は五輪後も文化力を向上させようと「beyond 2020」計画を策定した。

 こうした目標を達成して、ロンドン「文化オリンピアード」をしのぐ素地はある。全国各地で毎日のように開かれているお祭りであり、地域の催事を支援する企業や個人、文化施設で催されている習い事の発表会の数の多さである。

 「くるみ割り人形」を演じた、バーミンガム・ロイヤル・バレー団のダンサーの最高位である、プリンシパルには日本人の平田桃子がいた。お菓子の国の王女役である。ロシアの名門マリンスキー・バレー団では同じ演目で、永久メイが主役の少女マーシャを演じている。東京がロンドンになる日は夢ではないかもしれない。

 

 

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政治経済情報誌・ELNEOS 1月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 P・F・ドラッカーは「マネジメント【エッセンシャル版】」(上田惇訳・ダイヤモド社刊、二〇〇一年)のなかで、「企業=営利組織ではない」という項目を立てて、それまでの経営学の常識を否定している。

 「利潤動機には意味がない。利潤動機なるものには、利益そのものの意義さえまちがって神話化する危険がある。利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかし、それは企業や企業活動にとって目的ではなく条件である。企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判断基準となるものである」

 こうした観点から、ドラッカーは、企業の組織構成のなかで「コストセンター」と「プロフィットセンター」の区分を厳に戒めている。企業のすべての組織はマネジメントによって統合されて「高い利益をあげて、初めて社会貢献を果たすことができる」としている。

 企業の法務、人事、財務、経理、宣伝、IRそして、広報部門も「コストセンター」とみることは社会貢献という目的を見失わせる。

 ところがどうだろうか。最近の大企業の広報部門の動向をみるとき、部門をインハウスとして独立の会社組織としてグループ企業からの受注も見込んでいる形態は納得できないこともない。

 新興企業が上場までの間、PR会社の支援を仰ぐことも頭から否定するつもりはない。

 日本においては、そもそも広報パーソンの適格者が不足している。自社の新しい商品やサービスをPRするばかりではなく、危機管理の前面に立つ経験を持った人材である。

 さらに残念なことに、企業の経営者が広報とIR、宣伝の区別を認識していないことも多い。

 デジタル時代を迎えて、PR会社が記者クラブに対するリリースの配布やメディアの記者たちとの人脈を駆使する市場が激変している。

 リリース配信会社の登場と隆盛である。ネットを通じたやりとりで、リリースの作成からメディアへの配信、フェイスブックやツイッターなどによって拡散させることまで、引き受けてくれる。配信先のメディアも大手新聞社やテレビ局ばかりではなく、専門紙・誌も細かく選ぶことができる。

リリースが掲載されたメディアについて、リポートまでくれる念の入ったことである。それぞれの段階ごとに料金も確立している。

 この分野では大手五社が競争を繰り広げている。ネットならではの各社のサービスと料金の比較サイトまである。

 各社のサイトをみると、大手企業でもこのサービスを利用していることがわかる。

 友人から最近、ある企業を相手取った訴訟について広く周知したい、と相談を受けた。東京・霞が関の記者クラブの門戸は開かれていた。個人がからむ案件のために、断られるかと思ったのが杞憂だった。

 ところが、配信サービスは「リリースの考査の結果、引き受けられない」と断られた。考査の基準は明らかにされていない。企業を相手取った訴訟は配信できない、ということである。

 配信会社は、ジャーナリズムにつながる窓でも、企業の危機管理のてがかりにはとうていならない。

 

        (この項了)

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政治経済情報誌・ELNEOS 2月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 東京医科大学が、合格点をクリアした女子受験者や多年の浪人受験生を不合格にした問題などについて第三者委員会の最終報告書をホームページに掲載したのは二〇一八年十二月二八日のことである。平成最後の歳末の押し詰まった時期。過去の経緯から考えて、当然開かれるべき記者会見もなかった。

 文部科学省の私立大学支援事業をめぐる汚職事件で前理事長と前学長が贈賄罪で在宅起訴されたのは一一月のことである。ふたりは収賄罪で起訴された前文科省の局長に対して、補助金の見返りとして、東京医大を受験した局長の息子が合格点に達していなかったにもかかわらず合格にした、という容疑である。贈収賄事件は七月に発覚、翌月には入試の不透明さが浮上した。

 株式上場企業に課される「適時開示」の原則は、企業が決定や不祥事を認識した「適時」に「適切」な開示を求めている。

 この原則は、会社法や証券取引所の規則の側面から説明されることが多い。しかし、企業の広報パーソンが熟知しているように、「適時開示」の範囲はメディアとの攻防のなかで拡大してきたのである。

例えば、決算の記者会見におけるリリースの中身はかつて、売上高と営業利益、計上利益、税引き後利益、そして来期の予測に加えて、簡単なバランスシートが付されているだけだった。最近の決算リリースは、最終的に株主総会に提出される有価証券報告書に近い多数の情報が盛り込まれている。

 「メディアは権力をチェックする役割を担う第四の権力である」と、政治部や社会部のように息みかえらなくとも、経済部あるいは金融部の記者たちたちは企業とともに企業の情報開示の原則を積み重ねてきたのである。

 東京医大の最終報告書の情報開示のありようはどうか。「適時」ではなかったことは明らかである。「適切」であったかどうかは、報告書の中身を見ていく過程で論外であることがわかる。

 そのまえにまず、日本弁護士会連合会が二〇一〇年七月(同年一二月改定)に策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」について触れたい。策定にあたっては「企業等」に、官公庁や地方自治体、独立行政法人、大学、病院などが含まれるとしている。

 東京医大の最終報告書も、このガイドラインに沿ってまとめられた。ガイドラインは、第三者委員会の不祥事に対する調査や認定、評価などの「活動」と、「独立性と中立性」、委員となる弁護士はその事業に関する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンスなどに精通した人でなければならないことなどを示している。

 このガイドラインも改定の時期にきているのではないか。「適時開示」の原則が盛り込まれていないのである。第三者委員会から報告書を受け取った上場企業は、適時開示する義務を負う。ガイドラインが想定しているさまざまな組織もまた適時かつ適切な情報開示をすべきなのは論を待たない。

 東京医大の最終報告書が適切性も欠いているのは、試験問題が漏えいした疑惑も浮上してことを取り上げながら、詳細な調査を怠っていることである。さらに、医学科のみならず、看護学科でも医学科同様の入試不正があったことに確信を持ちながら、その実態の解明に至っていない。

        (了)

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政治経済情報誌・ELNEOS 1月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 中国のアリババグループの創業者である、ジャック・マー会長は、いわゆる米中貿易戦争について「米中が覇権争いをしていることから両国の貿易摩擦はトランプ大統領の任期が終わっても残り、二〇年間にわたって続く可能性があると指摘」と報じられた(ブルンバーグ・二〇一八年九月一八日)。杭州で開いた投資家向けの会合で語った。

 マー会長の発言は、日本の新聞などでも小さく報じられた。企業の広報部門は、この記事を経営層に届けるクリッピングに入れたであろうか。戦前の大本営作戦参謀にして、戦後は伊藤忠商事の会長などを歴任した、瀬島龍三氏は新聞の外報面のベタ記事に注意を払ったという。

 日本のメディアは。一九八〇年代の日米貿易摩擦の記憶から「米中貿易戦争」の見出しで米中関係を報じてきた。世界的には、「新冷戦」との認識がふかまっている。マー会長が米中の覇権争いである、という認識は正しい。

 ニクソン米大統領を辞任に追い込んだ、ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者による最新刊の「FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実」(日本経済出版社)は、政権内のトランプ一族の大統領上級顧問である、娘婿のクシュナーと娘で大統領補佐官のイバンカのふたりが、他の閣僚や重要な人物との軋轢を余すことなく描いて、世界最大の大国の政策決定の危うさを知ることができる。

 さらに、「アメリカ・ファースト政策」を掲げて、トランプが進めるNAFTAの再交渉やTPPからの離脱、中国製品に対する課税強化など、経済政策に関する政権内の議論も描かれている。

 国家経済会議(NEC)委員長のゲーリー・コーン(一七年一月~一八年四月)が自由貿易の優位性を説くのに対して、トランプが「グローバリスト」となじる場面は白眉である。筆者のウッドワードは「経済学者の百人のうち九九人がコーンに賛同するだろう」と述べている。しかし、対中貿易政策についてトランプの側につく、百人にひとりの発言権が高まっている。

 その人物は、国家通商会議(NTC)委員長のピータ・ナバロ。政権入りする前職のカリフォニア大学アーバイン教授時代に「米中もし戦わば 戦争の地政学」(文藝春秋社)を著した。中国が経済発展にともなって、軍事的にも米国の脅威になる、と警鐘を鳴らしてきた。政権の対中強硬派の中核となっている。

 米中・新冷戦の認識に光を当てるのが、マイケル・ピルズベリーの最新刊「China 2049 秘密裏に遂行される『世界覇権100年計画』」(日経BP社)である。ピルズベリーは国務省顧問。ニクソンからオバマに至る政権で対中防衛対策を担当した。

 諜報とその分析のプロである、ピルズベリーが、共産党が政権を握った1949以来、中国が長期的に世界の覇権を狙っていたことを認識したのは、最近のことだと、悔やんでいる。米国は中国が経済発展すれば、民主主義国家に移行するだろうという予想から、軍事分野も含めて技術援助を惜しまなかったという。「もし中国政府が現在の優先事項を堅持し、同じ戦略を続け、毛沢東が政権をとって以来、大切にしてきた価値観に固執するのであれば、中国が形成する世界は、わたしたちが今知っている世界とは大いに異なるものになる」と警告する。

        (この項了)

 

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政治経済情報誌・ELNEOS 12月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が首脳会談で、北方領土について、一九五六年の日ソ共同宣言を基礎にして日ロ平和条約交渉を加速させることに同意した。共同宣言によれば、平和条約の締結後にロシアが歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す、としている。

 日ソ関係の転換は、世界秩序に大きな変化をもたらすことになる。日本企業にもその変動の波は打ち寄せる。

 このシリーズでは、京都大学名誉教授の中西輝政氏の「アメリカ帝国 衰亡論」(幻冬社)を手掛かりにして、情報分析の重層性について考えてきた。すなわち、日々のニュースは上層であり、中層は覇権国のパワーの関係など、そして下層が世界史的な潮流である。

 この情報分析の重層性は、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のエドワード・ルトワック氏の最新刊「日本4・0 国家戦略の新しいリアル」(文藝春秋社)の視点にも現れている。同氏は、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーである。

 「現在、北朝鮮はアメリカとの非核化の交渉に応じているように見える。しかし、それがこのまま続くという確証はどこにもない。トランプ大統領でさえ『半年経ってみないと、(首脳会談が)成功かどうかわからない』と述べているほどだが、これが建前ではなく、事実であろう」と、日本が直面している朝鮮半島の行方について分析する。

 「核兵器の本質が抑止である以上、あえて威嚇に使うのは合理的でとはいえない。抑止のルールの外側に出ようとする国家に対して必要なのは、『抑止』ではなく防衛としての『先制攻撃』なのである。この『先制攻撃』を具体的にいえば、北朝鮮のすべての核関連施設とすべてのミサイルを排除するということ、すなわち軍事的非核化である。実は、アメリカはこの軍事オプションをまだ手放してはいない」と述べる。

 アメリカにとって最も警戒すべき相手は、台頭する大国、中国である、というトランプ政権の見方を、ルトワック氏は共有して次のように述べる。

 「中国問題に集中するために、ロシアと何かしら合意を結ぶべきだ、という考え方である。これは冷戦下で、ニクソン大統領が毛沢東と手を結んで

台頭するソ連に対抗したやり方と似ている」と。

 トランプ大統領の考え方について、およそ以下のようなものだろう、とルトワック氏は分析する。

 「もしロシアがシベリアを失うようなことがあれば、それはアメリカではなく、中国人にとられるからだ。米露は、中国の膨張を食い止めるという点で共通の利益を持っているはずだ。だから協力をしようじゃないか」

 このように、朝鮮半島の危機と米中両国の覇権争いという歴史的な転換点において、日本は新しいシステム「4・0」を構築しなければならない、というのである。ルトワック氏によると、「1・0」は江戸幕府時代であり、「2・0」は明治維新、「3・0」は終戦後の体制である。これらの過去のシステムに対して、「日本人は戦略下手どころか、極めて高度な戦略文化を持っていると考えている」と評価する。

 京大名誉教授の中西氏が「「世界史の教訓」(育鵬社)のなかで、維新前夜において、世界的規模で繰り広げられていた英露の覇権争いを幕府は巧みな外交によって乗り切った、と評価しているのと響き合う。       (この項了)

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